溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
脅す、と言うより心配するような言い方だったので、一瞬目線を落としかけたけれどグッと堪えた。


「僕が言うのもなんだけど、うちの父を敵に回すと厄介だよ」


「それはどういう意味ですか?」


恐る恐る尋ねたら思ってもいない答えが返ってきた。


「うちの父のことだから婚約解消で莫大な慰謝料を請求するかもしれない」


真剣な顔でそう言われて、一瞬怖気付いてしまいそうになるけど。


「それでも、もう私は……」


自分の心に嘘をつけない。


こんな気持ちのまま、天堂さんのそばにはいられない。


長身の彼をまっすぐに見上げて、こう言った。


「親は関係ありません。
これは私の意志です。
もしも慰謝料を払えと言われても構いません」


「……」


「父もきっとわかってくれると思います」
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