溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
駐輪場に戻ってくると、紫音は何も言わずに私を抱き寄せた。


「え……」


強い力で抱きしめられているのに苦しくはなくて、代わりになんだか切ない気持ちになる。


彼の表情が苦しそうだったからかもしれない。


「お嬢様、まだ痛いですか?」


私の後頭部を優しく撫でながら心配そうに尋ねる彼。


「あ、髪?大丈夫、大丈夫。もう痛くないよ」


「すみません。
俺がもう少し早く来ていれば」


眉間に皺を寄せ悔しそうに歯噛みする。


「ううん、どうして紫音が謝るの?」


「……守れなかったから」


「守ってくれたよ」


「お嬢様にこれ以上、辛い思いはさせたくないのに」


「そんなの……平気」


私よりも気落ちしている彼を元気付けたくてわざと明るく笑った。


「全然、怖くなんてなかったもん。きっと紫音が助けてくれるって信じてたから」


ほんとはまだ体中震えが止まらない。
 

だけど、私は紫音の方が心配だから。


わざと強がってみせたけど、この気持ちは真実。


「私には紫音がいるから大丈夫」


彼の背中に手を伸ばしてゆっくりとさすった。


筋肉質で硬い背中。


「俺はちゃんとお嬢様を守れていますか?」


不安そうに揺れる瞳に、私は迷いなく答える。


「うん、もちろん。私の執事は最高だもん」


どうしてかな、彼はあんなに強いのに私のこととなると弱気な顔を見せるんだ。
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