年下の彼は甘い甘い鬼



「今二十一歳で今年二十二歳になる
ほらオネエサンはオネエサンのままでしょ?」


今度はサラリと答えてしまうヒロは
高校生ではないけれど、やっぱり年下だった


「・・・だね」


年齢だけで十分だと思っていたのに


「今はね、飲食店を色々経営している会社で働いてる」


ヒロはスーツを着ている理由まで教えてくれた


髪を掻き上げる手に視線が移る


「まだ治らないの?」


左手の薬指の根元にはまだ絆創膏が貼られている


「・・・ん。あ。うん」
妙に含んだ返事をしたあと


「オネエサンは今日、何処にお出かけしてた?」


右手を私の頭に置くと顔を覗き込んできた
それが話題を変えるためだと気づかない私は、距離の近さに狼狽えるばかり


「・・・えっと、今日は職探し」


頭の上の手が優しく髪を撫でる


「あーね。良いとこあった?」


優しく目を細めるヒロの笑顔を見ただけなのに、どんどん頬が熱くなって


「・・・あったにはあったんだけど」


言葉が上手く出てこなくなった


「オネエサン、可愛い」


そんな私を揶揄ってくるヒロはポケットからスマホを取り出して画面を見た途端


「ウゲェ」と眉根を寄せた


「どうかした?」


「サボってるのバレた」


「え」


「お昼休憩終了。仕事に戻りま〜す」


立ち上がって食べ終わった食器を運んでくれた


「置いてても良かったのに」


「ご馳走になったんだからこれくらいしないとバチが当たるかも」


そのままスタスタと玄関に向かうヒロを追いかける


「フフ、ありがとう」


靴を履いて振り返ったヒロは


「こちらこそご馳走様でした」


あっという間に私を腕の中に収め


「・・・っ」


「オネエサンさ、隙だらけだからね」


慌てる私を揶揄いながら頭の上にリップ音を立てた

鼻腔を掠める爽やかな香り


「・・・っ」


「またね、オネエサン」


サッと離れたヒロはヒラヒラと手を振ると片目を閉じて背中を向けた







バタンと閉じた玄関扉にハッとする


「モォォォォ!ヒロを警戒対象にしてやるんだからっ」


誰もいない玄関で悔し紛れの悪態を吐いてみたものの


下駄箱の鏡に映る私の顔は


恐ろしく真っ赤だった







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