年下の彼は甘い甘い鬼


「南は龍神会の三ノ組筆頭である愛龍会が統べる街だ」


その説明で四年前の大事件を思い出した


「この街は龍神会に救われた街だからな。とても友好的だ
だがなアングラの世界の住人にはどうしても行政との隔たりもある
特に医療系は壊滅的だな」


カルテもなにも無かった理由と繋がるのだと理解した


「診ようが診まいが毎月契約をしているから心配しなくていい」


「分かりました」


「だからって俺たちが危険に晒されることはないから安心しろよ」


「了解です」


「ま、今回のは抗争じゃなくて身内の暴れ馬が暴走した結果だ」


「暴れ馬・・・っ」


「そのまま他の医者に診せたら通報もんだろ?」


「確かに」


「そういう場合のみだからな。カルテを書かないのは」


「あー。了解です」


「基本的には奴等もフロント企業で働いてるから、ちゃんと保険証だって持ってる」


「カルテを書く場合も大いにアリということですね?」


「あぁ」


無理矢理納得した感じだけど

医者は患者を選ばない


平等の精神を思い出したところで病院に到着した


「午後から休みたいな〜」


「は?」


「お腹も膨れたし、コーヒーも美味かった
杏珠、今日はもう帰れ」


「は?」


「は?じゃなくて「はい」だろ」


「まさか・・・」飲みに行くつもりじゃ


「ないからな」


「怪しい」


真意を探ろうと院長を見つめる


「俺はこれから三田の爺さんの囲碁の相手だ」


三田さんと言えば、あの三人の後直ぐに来た患者さんで、糖尿病で通院中の七十歳のお爺ちゃんだ


「それにしても、囲碁?」


「ある時は囲碁相手、またある時は電球替えのお手伝い」


「何でも屋さんみたいですね」


「あぁ、そういうことだな。ほら、着替えてこい」


ズル休みでは無かったから、お言葉に甘えよう


「明日は」


「明日は頑張る」


「絶対ですよっ」


「あ〜帰れ帰れ」


シッシと犬を追い払うみたいに外に出されてしまったから


諦めて帰ることになった







< 57 / 127 >

この作品をシェア

pagetop