年下の彼は甘い甘い鬼



「美味しい」


「良かった」


少しずつ全部食べたいと言ったヒロは作り置きのおかずを片っ端から制覇している


時折りスマホを取り出してカメラに収めていたりもする


「これ好き」


「筑前煮ね」


和食が好きなのか、大きな人参もレンコンも美味しそうに食べている


「オネエサンは?食べないの?」


「今日は外で食べてきたの」


「へぇ」


聞いた割に興味の無さそうな返事をした癖に


「何ていう店に誰と行ったの?」


急に切り込んできた


「え?」


「だから、何ていう店に誰と、行ったの?」


心なしか“誰と”が強調された気もする


「えっと、あのね」


急に仕事が決まったことを話す


「へぇ」


ほら、やっぱり興味がない


そう思ったのも束の間


「その院長とはどういう関係?」


箸を置いて真っ正面から射抜く双眸が強すぎる


「あの、えっと」


その説明のために浅見医院の話をすることになった


「“おじさま”ね」


「うん。そうなの、母と同い年だからなのかな
祖父にそう呼びなさいって言われた」


「じゃあ“おじさま”って呼べば良いじゃん」


もうスッカリ元のイケメンに戻ったヒロ


時折り、強すぎる目力に負けてしまうけれど
男の子はこんなもの?って思うほかない

だって、これだけお喋りする相手は、ヒロ以外なら院長と杉田さんしか知らない


駅近くの定食屋さんのことはヒロも知っていた


ただ・・・

就職が決まったことは喜んではくれたけれど

院長との距離が近過ぎると口を尖らせてしまった


「ヒロ?」


「オネエサンは隙だらけなんだからね」


「んと、自分では分からないけど」


「患者だって、触るんだよね?」


「それは、仕方ないよ」


「患者は仕方ないけど、院長には構わなくて良〜よ」


「まぁ、そうなんだけどね」


「本当に“おじさま”って思ってる?」


「思ってるよ?」


更には責められているような気分にもなる


「んんんん。オネエサン、油断しないで」


最後はイケメンのオネダリに私が身悶えてしまった




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