年下の彼は甘い甘い鬼
黒を纏う彼と
午後の診察は三時開始
昼休憩の間も病院の入り口は開いているから順番を取りに来る患者さんがいる
その記名順にカルテを用意すると「眠い」と文句を言う院長が診察室におりてきて診療が始まった
患者さんの年齢層は高め。先代の頃からの常連さん達のお喋りは見ていても楽しい
「あら、可愛い看護師さんが入ったのね」
「もしかして年の差婚かしら?」
「どうりで病院が綺麗になったわけだ」
「珍しく午後から開いてる理由だな」
お喋りのネタにもされてスッカリ時の人になった
途切れることなく診察は続き、時計を見たのは閉院時間の五時少し前だった
山中医院の受け付けは、名前を記入して診察券と保険証を預かる
その記名欄の横に[診察]と[投薬のみ]の選択欄があって患者さんはどちらかに丸をする
こちらは診察済みの患者名を赤鉛筆でチェックして把握する
最後までチェックが入っているのを確認して閉院作業を始めた
院長にラストの報告だけしようと診察室へ戻ると
「・・・っ!」
・・・嘘
そこには院長と向かい合う黒を纏う彼がいた
・・・いつ?
どこから入ってきたのか全然気付かなかった
気配もなく診察室に入っていたことに驚愕する
黒いスーツに身を包み、何故かサングラスもかけている彼
もしかして病気・・・だろうか?
受け付けと診察室の間に立って様子を見る
院長も聴診器に触れることなくお喋りしているから
世間話に来ただけかもしれないと判断し、処置室へと移動した
待合室からはそれぞれ入る扉が違うけれど
内側は、受け付けから診察室、処置室へと扉も壁もない通路で繋がっている
診察室の二人の気配を感じながら一人黙々と閉院作業を進めた
結局五時になっても二人の話は終わらず
『診察が終わっていたらお喋り中の俺のことは気にせず置いて帰れ』
そう言われていたことを思い出して院長にメモを残して裏口を出た