年下の彼は甘い甘い鬼
恐怖体験
━━━翌日
朝から酷い雨が降っていた
[オネエサン。雨だね]
ヒロは何気ないメッセージを一日に何度も送ってくれる
だから、いつでもそばにいるみたいな気になる
[オネエサンは今なにしてる?]
大抵はヒロの質問に答えていることが多い
[これから掃除だよ]
[じゃあ頑張って]
[うん。ありがとう]
アパートのベランダには雨を避ける屋根がない
せっかくの休みなのに洗濯ができないとか残念すぎる
せめてもと念入りに掃除をすることにした
とはいうものの、住み始めて間がない部屋
無心になって手をつけても、あっという間にピカピカになった
◇
継母はお手伝いさんを雇っていた
『看護師だったから家事は無理よ』
態々聞かされたそれは、暗に私のことだけしないと言っているようなもので
義妹の部屋を掃除する姿は何度も見かけた
だから・・・
継母と暮らした短い間に、部屋の片付けを始めとする身の回りの整理整頓から掃除機をかけるところまで日課になった
お陰で、なんでもできるようになったから
良かったと思うべきなんだろうけど・・・
こんな日に限って思い出すなんて、気にしないと言いながら実は根深く燻っていることに気づく
家族のことは諦めたと思っていたのになぁ
低い曇が気分まで落とすみたいに思えて深くため息を吐いた
雨だけど杉田さんの店に行こう
お裾分けに冷凍庫で渋滞しているホワイトソースを二個バッグの中に入れた
家から出る理由なんて何でも良かった
こんな日は、くだらないお喋りで笑っていたい
レインブーツを履いて玄関を出た途端
「こんにちは」
共用廊下に知らない男性が立っていた
「・・・こん、にちは」
セールス?
「ククッ、見知らぬ人なのに返事しちゃうなんて、か〜わいぃ」
・・・チャラいから違う、よね
何か宗教的なものだろうか?
妙なことに巻き込まれてしまう前にと
勢いで開けてしまった扉を閉めようとドアノブを引いた
「っと、危な〜い」
その隙間に足を挟んできた男性は
「ちょ〜っと良いですかぁ」
緩い喋りで扉を掴むと強引に身体を滑り込ませた
「キャァァァァァァァァァァ」