年下の彼は甘い甘い鬼


「不審者」


「ま〜ね〜」


一人で出勤すると言った私と、此処からの初出勤は送ると粘ったヒロの攻防は、ヒロに軍配が上がった


スポーツウェアのスウェット上下を着たヒロは、やっぱりパーカーを目深に被ってマスクをつけた

長い前髪が目元も隠してるから、もはや不審者


それを指摘しても軽く躱したヒロは更に手まで繋いだから

朝からフルマラソンを終えたランナー並みにグッタリだ


三分もあるけば山中医院に着いた


・・・考えてみると裏通りでも山中医院は一等地だ


「オネエサン。いってらっしゃい」


「ありがとう。行ってくるね」


手を振るヒロにありがとうを沢山言って裏口へと続く路地に入った







「シャンとしてください」


「無理だ」


「モォォォォ」


昨日、朝から晩まで飲んだという院長は呼気よりも肌の表面からアルコールを放出しているみたい


グッタリしているから濃いめのコーヒーをデスクに置いたけれど


すこぶる体調が悪いらしい


「自業自得です」


「杏珠がいなきゃ病院開けなかったのに」


「私の所為にしないでくださいね」


「チッ」


休み明けは患者さんが多い


院内処方の所為で色々がもたついて、益々院長の機嫌が悪い


「今月中に院外処方にするぞ」


「はいはい。頑張ってください」


「杏珠、次は熱ーいお茶にしてくれ」


「はーい」


近くの調剤薬局からは医薬品のリストが届いている

カルテこそ手書きのままだけど。診療報酬計算にはレセプトコンピュータも導入しているのに延々放置しているらしい


「杏珠がやれよ」


「えー。そんな難しくないでしょ?」


「いーや。杏珠がやれ」


「ハァ」


面倒臭がりの院長を懐柔するのは至難の業だ









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