誰も知らないもうひとつのシンデレラストーリー

Real&Story5

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「なあ、妃花、今日部活休みなんだけど、」

「…ごめん、私やることあるから」


放課後、ホームルームが終わってすぐに、席へとやってきた皇輝。

クラスメイトの視線も同時に感じながら、私は早々に席を立ち話を切り上げた。


噂が流れるようになって数日。

未だ、話題の中心にいる私達は、周りから注目されてしまっていた。


意味が分からない、理解できない。


こんな噂にもなっていて、注目されている時になんでわざわざ話しかけてくるんだろう。

そもそも、どうしてあんなこと言うのかも分からないし、絶対冗談半分なのに…。


あー!もう!目立ちたくないのに!!


周りなんて全く気にしない様子の皇輝の態度から、

私は困惑しながらも逃げ続けていた。


住むところが違う、別世界の人。

関わることなんてないと思っていたのに。

どうしてこんなことに…?


そんな思いを脳内に巡らせながら、私は自分を落ち着かせるため、中庭に向かっていた。


本当は、今日は行く予定はなかったけど、皇輝から逃げるために来てしまった。

こんな不純な動機で来ちゃってごめんね…。


私の荒ぶる心とは対照的に、ゆらゆらと優しく風に揺れる花たちを眺める。


「…はあ…。」


気付かぬうちにあふれ出るため息。

事務の先生は様子がおかしい私には何も言わず、隣で一緒に花を眺めてくれていた。


「秋の花もいいね。妃花ちゃんのおかげで幸せそう」

「そうだといいですけど…」


荒だった気持ちがすーっと落ち着いていくような、

そんな優しい会話と、少し寂しいにおいを感じる秋風に揺れる花々。


私は、落ち着いた気持ちで、隣で微笑む先生を見つめた。


「先生…、私、先生みたいな大人になりたいです」


お淑やかで優しくて、お花の似合う事務の先生。

決して目立つわけでもなく、特別生徒と仲が良いわけでもなく、職員室へ行ったときもただ集中してPCに向かっている。

だけど、心は凄く温かくて、周りの為に動けて、感謝の気持ちも忘れない。


そして、一緒にいたら、不思議とスーッと心が晴れていく。


先生の素敵な人柄が、気付けば私の指標になっていた。
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