誰も知らないもうひとつのシンデレラストーリー
所々で挨拶の交わされる、登校時間の廊下は賑やかだ。

私はその廊下の隅をひとりで控え目に歩く。


「っっと、悪い!仲村!」


ドンっと、突然後ろから衝撃が走り、私は、少しバランスを崩した。


幸い転ぶことはなく、落ち着いてずれたメガネをかけ直すと、

ぶつかった正体だったらしい、同じクラスの男の子に爽やかに謝られる。


「大丈夫だよ。おはよう」


そう返すと、男の子たちは爽やかに笑いながらまた私を越えていった。


「ホントお前、前見て歩けよ。仲村で良かったな、優しいから」

「確かに、(もえ)だったら、殴られてたよ。」

「あはは、確かに昼奢れとか言ってくんじゃねーの」


楽しそうに会話をしながら歩いていくクラスメイト。

私は、一つに束ねたストレートで長い髪を揺らし、静かにその後を追った。


高校2年生。当たり障りのない普通の女の子。

いや、それは嘘かも。少し地味な女の子。


だからと言って友達がいないわけでもなく、とにかく平凡な私。

話しかけられれば誰とでも話すし、笑顔で会話もする。


「優しいけど、ちょっと地味だよな」

「大人しいから、誘っちゃ悪いよ」


そんなところが、きっと皆からの私への印象。


私はというと、そんな立ち位置に割と満足していて、それが私のいるべき場所だと感じていた。

それ以上でもそれ以下でもない、今の立ち位置が私にはちょうど良くて落ち着いている。

それが私の毎日だった。
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