素敵なあなたに似合う人
敢えて言ったことはないけれど、この部屋に異性を招いたのは、親友のあなただけ。

今日もまた、あなたは小さなテーブルの向こうで微笑んでいてくれる。

キンキンに冷やした缶コーラを開けようとしても、爪の弱い私は、なかなか開けられない。

無言で伸ばされた手に缶コーラを預けると、一瞬で開け、渡してくれるあなた。

それはもう、ありふれたシーンのひとつ。

「ありがとう」

「いえいえ」

お互い、アルコールは強いけれど、あなたは私の部屋では決して呑まない。

「寮じゃないし、別に呑んだって構わないのに」

私はそう言ったけれど、

「いいよ。女の子の部屋に来てるんだし…」

要するに、さりげなく気を遣ってくれているというわけだ。

女の子、ね…。

あなたにとって私は、一応、女の子という認識ではあるみたいだけれど。



私たちは、高専の4年生。

入学式当日、クラスの女子が、まさかの私一人という最悪なシチュエーションに、これから5年間どうなるの…?と、目の前が暗くなった。

男好きなら、逆ハーレムだと喜ぶかもしれないけれど、私はいつも女の子とばかり一緒に居るタイプだったから、こんなのは最悪以外の何でもない。

しかし、隣の席になったあなたが、

「女子が他に居ないなんて、きっと、不安だと思う。でも、僕はいかにも男って感じでもないから大丈夫でしょ?」

おどけてそう言われ、私たちはすぐに意気投合した。
あなたがいつも一緒に居てくれたから、他のクラスメイトとも少しずつ打ち解けることも出来て、男性恐怖症みたいなものも、すぐに克服できた。

クラスには、私一人しか女子が居ないこともあり、クラスメイトからは冗談で、姫なんて呼ばれたりもしているけれど、クラスメイトたちとは、それ以上でもそれ以下でもない。

あなたは恋人ではないけれど、他の子たちよりは、ずっと親密な関係にある。

しょっちゅう、二人だけで遊びに出掛けたり、こうして部屋に招いたり。



しかし、出逢いからもう丸3年経つのに、ずっと友達のまま。殆ど男子校みたいな環境だから、浮いた話も特にないけれど、もし、よくある共学だったら、きっとあなたはモテたと思う。

大学生と同じ年齢になったことだし、よその学生との交流も出来たのだろうか?と、そっと探りを入れたくなった。

「最近、新しい出逢いなんかあった?」

あたかも何でもないことのように話を振ると、

「いや?代わり映えしないよ」

「ふーん…」

「どうして?」

「ん…あなたにお似合いの人はどんな人だろう?ってちょっと過っただけ」

「へえ…それで、どんな人が似合うと思う?」

少しいたずらな笑みを浮かべて訊いてくるあなた。

「そうねぇ…優しくてかわいらしい人がいいと思う。でも、ありきたりのようで、実際はなかなか居ないよねぇ…そんな人」

自分で言って、落ち込んでしまった。

私も、優しくもなければ、かわいらしくもないから。

「もし、そう思うんだったら…」

あなたはそこまで言って、黙り込む。

「思うんだったら?」

「だからさ…本当にそう思うんだったら…付き合ってよ」

何の話か、一瞬よくわからなかった。

いつも落ち着いているあなたが、瞳をそらしたまま、意味もなく紅茶のカップをかき混ぜている。

「付き合って、って…それ、ステディな関係のこと?」

「そりゃそうだよ!何処に付き合えばいいの?なんて、使い古されたボケは勘弁な」

そう言って、照れ笑いと苦笑いの混ざった顔のあなた。

どう答えていいのかわからない。

自分から探りを入れたくせに、まさかその流れで告白されるとは、完全に想定外だったから。

「で…でも、私は優しくもなければ、かわいらしくもないよ…?」

「そうかな。少なくとも、僕は他に優しくてかわいらしい子を知らないけど」

「それは…この学校に女子が殆ど居ないからでしょう?私、クラスに女子一人であってさえ、全くモテないのに」

「あのなぁ…僕がずっと告白しなかった理由、知ってるの?」

「知らない」

「1年の頃、他のクラスメイトたちで決めてたんだよ。クラスに女子一人しか居ないんだから、抜け駆け禁止!って」

そんなの初耳だ。

「だけど、みんなも僕らが親しいのは知ってるし、割と最近、もう解禁にしようって流れになってきてさ。だから、やっと言えた」

「そうだったの…」

「僕は、言うべきことは言ったよ。返事は?」

「うん…」

「それだけ?」

「私だって、ずっと好きだった…!」

「僕はきっと、その何倍も、何十倍も、ずっと好きだったよ。それは、これからも変わらない…いや、もっと好きになるかも」


開け放した窓から吹き込む風は、もうすっかり暖かい。

目の前には、愛しいあなた。

やっと、本当の春が来たみたい…。




The End
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