嘘と恋とシンデレラ

第15話


 予鈴が鳴る。
 わたしたちは校庭近くのベンチに腰を下ろしていた。

 ざぁ、と吹いた風に木々の(こずえ)や花壇の花が揺れる。
 そんななんてことのない些細な光景にさえ、なぜか不安感をかき立てられた。

「……お前が気にすることないから」

 すっかり気を抜いているらしい隼人はわたしの肩にもたれかかりながら、いつもよりゆったりとした口調でそう言った。

「カッターのことなんてあいつの自業自得だし、こころが気に病むことじゃない。だからもう近づくな」

「でも……」

「不安にさせないでくれよ、頼むから」

 わたしの罪悪感や負い目を利用して、響也くんが何かを仕出かす可能性があると言いたいのだろう。

(そんなふうには見えなかったけど……)

 謝ったとき、わたしを責めたり脅したりする素振(そぶ)りは一切なかった。
 だからって許してくれたのだと思うほど図々しくはないけれど。

 なんて考えていると、隼人が肩口に頬をすり寄せた。
 珍しいな、と思った。
 彼の家以外では、こんな姿は滅多に見られない。

「……俺って重いかな? めんどくさいよな、こんなことばっか言って」

「そんなことない」

 気付けば口をついて反論していた。

「それだけ大事に思ってくれてるってことでしょ? わたしは嬉しいよ」

「本当に?」

 ばっと隼人が顔を上げた。

 確かに嘘偽りのない本心だ。
 それがすべてではないけれど。

 絡みついてくる不安や引っかかりを取り払えば、の話だ。

「迷惑じゃない? こころのこと苦しめてないか?」

「えっと……さすがに暴力は辛いけど」

 苦笑しつつ前置きして続ける。

「そうやって気持ち伝えてくれる方が安心出来るし、ちゃんと愛されてるって実感出来るから」

 わずかに瞠目(どうもく)した隼人の瞳が揺らいだ。
 期待の込もったその眼差しを真正面から受け止める。

「じゃあ────」

 こく、と頷いてみせた。

(もう迷わない)

 響也くんの言葉に惑わされちゃだめだ。
 目の前の愛を信じなきゃ……。

 わたしはもう一度、隼人の手を取る。
 手放した彼との日々をやり直すんだ。
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