嘘と恋とシンデレラ

 (つの)った不信感が爆発した。

 これまでは思いついても怖くて口に出来なかった疑惑を、真正面から突きつける。

 訪れた沈黙が、刻まれていく()が、ことの重大さを思い知らせてきた。

 そこで初めて、自分の心臓がばくばくと激しく暴れていることに気が付いた。

「…………」

 響也くんはしばらくこちらを見つめたまま押し黙っている。

 何か言おうと口を開きかけ、だけど結局、噛み締めるように(つぐ)んだ。
 険しい顔をしたまま、首を左右に振る。

「違う」

 たった一言、きっぱりと言ってのけた。

 そのあとにそれらしい反論が続けられる気配はない。
 言い訳でも何でもして、納得させてくれたらよかったのに。

 わたしは握り締めていた両手の力を抜いた。
 そっと立ち上がり、静かに彼を見下ろす。

「……嘘つき」

 そう残して歩き出そうとしたものの、間髪(かんはつ)入れずに彼も立ち上がった。

「待って」

 手首を掴まれ、足が止まる。
 ばっ、とその手を振りほどきながら振り向いた。

 この()に及んで何なのだろう。
 文句を言うつもりだったのに、機先(きせん)を制される。

「これ見て」

 そう言って提示されたのは彼のスマホ。
 写っているのは1枚の写真。

「なに……?」

 夜の暗い景色の中、白っぽい骨のようなものが浮かび上がっている。
 あの歩道橋だ。下から写したみたい。

 その上を歩くわたし。
 そして────その背後に人影。

 はっと息を呑んだ。

「これ、隼人……!?」

 瞬きすら忘れ、食い入るように写真を見つめる。

 わたしから一定距離を空け、ついて歩いている人物の姿。
 それはどう見たって間違いなく隼人だった。

(まさか……昨日の?)

 動揺が隠せない。
 心音は先ほどの比じゃないくらいに高鳴っている。

「僕がこころに疑われるのも仕方ないとは思う。屋上でも、確かに僕はこころの意思を無視して勝手なことしたから」

 響也くんはスマホを下ろし、わたしの目を覗き込んだ。

「でも、こころの言い分はまったく反対のことも言えるよね? すべてはあいつが僕を落として、自分を信用させるためにしたこと」

 両肩に彼の手が添えられる。
 もうそれを突っぱねられる余裕はない。

 真剣な瞳に捕まった。

「きみを混乱させたいわけじゃないけど……もう一度、よく考えて欲しい」
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