嘘と恋とシンデレラ

 心臓が沈むような音を立て、速まっていく。
 迷い、惑わされるリズム。

 星野くんの態度は(しん)に迫っており、やっぱりどうしても嘘をついているようには見えなかった。

(でも、信じるには……バットの疑惑が晴れないと)

 ただ、問い詰めるとしても今じゃない。

 いくら距離をとってくれても、ここじゃふたりきりで逃げ道はひとつだけしかないのだ。

「……ちょっと、考えさせて」

「待って」

 逃げるように(きびす)を返したものの、即座に引き止められる。

「一緒にいてくれないと困る。僕の言うこと聞いて?」

 意外だった。
 彼がそこまで言うなんて。

「こころは何も話さなくていい。信じられないなら信じなくてもいいから」

 (せつ)に訴えかけてくるような声色。
 引き下がるつもりなどいささかも持ち合わせていないようだ。

「お願いだから……手の届く距離にいて。ちゃんと守らせて」

 どきりとした。
 以前の愛沢くんの言葉を思い出してしまう。

『もう離れないで欲しい、片時も。俺の目の届く範囲にいてくれ』

 そう言った彼は実際にわたしを監視するように束縛し始めた。

(星野くんも……)

 “手の届く距離”に閉じ込めるために、昨日あんなことを仕出(しで)かしたのだろうか。

 騙し討ちのような形でわたしの意識を奪い、家に軟禁しようとして────。

「……ごめん、今は無理だよ」

 ますます頷けなくなった。

 はっきりと拒絶しなければ、また同じような目に遭わされる気がする。

「隼人とも一緒にいないようにするから、それで許してくれないかな」

 振り返りながらそう言うと、星野くんの顔に初めて怒りが宿った。

 静かな炎が燃えているみたいな温度の低い感情が(あらわ)になる。

「信じられないのは仕方がないにしてもさ……疑わないでよ。あんまりだ」

 ぞく、と背筋が凍りつく。
 普段温厚(おんこう)な分、その態度が余計に恐ろしく感じられた。

「ご、ごめん……!」

 怖くなって、慌てて屋上を後にする。

 階段を駆け下りていく途中、ガァンッ! と甲高くも重たい衝撃音が響いてきた。

「!?」

 びくりと肩が跳ねる。
 息が止まるかと思った。

(何……!?)

 恐る恐る振り向いて見上げる。
 屋上へと続く鉄製のドア……まさか、彼が蹴った?
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