嘘と恋とシンデレラ

第13話


 いびつな愛が首にまとわりついていた。

「俺はさ、本っ当にお前のこと好きなの」

 静かながら熱と力の込もった声で愛沢くんが言う。
 滲んで歪む視界で彼を捉えた。

「どんなときでも俺を信じて、優先してくれて、素直で可愛くて……。俺にはこころしかいない、って思ってた」

 手の力が緩んだ。
 お陰で彼の言葉が何にも阻まれることなく耳に浸透(しんとう)していく。

「ずっと、俺だけのこころでいて欲しかった。愛してた。……や、今だってまだこんなに────」

 手の甲側の指が愛おしむように頬を撫でて滑る。

「……!」

 目の前がちかちかした。
 ずきん、と頭痛を伴って意識が明滅(めいめつ)する。

(……思い、出した)

 わたしは以前、何度もこんなふうに優しく触れられたことがある。

 でも、それは決まってひどい暴力を受けたあと。

 繰り返し殴られたり蹴られたりして、鈍い痛みを味わわされていたんだ。
 それを身体はちゃんと覚えていた。

(本当に、隼人が……偽物だった)

 先ほど白状した通りだ。
 そんなこと嘘をつく必要もないし、本人が認めた以上は確定だろう。

 わたしは唇を噛み締める。

 冷静さを失っていた。
 こんな状況で問い詰めたら、こうなるに決まっているのに。

(でも)

 失敗した、と思う反面、少しだけ喜びにも似た感動が心のどこかにあった。

 こんなに愛してくれていたんだ。
 わたしを取り戻すために嘘をついていたんだ。

 彼の本質がどうであれ、そういう動機ならば一概に“悪”とも言えない気がしてしまう。

 そんなことを考えていると、ふと愛沢くんの顔色が変わった。

「だけど、俺がこんなにお前のために我慢してきたのに……お前は分かってくれない。全然、何にも分かってない」

 怒りを(たぎ)らせたような眼差し。
 再び手に力が込もり、息が苦しくなる。

「うぅ……っ」

「あいつにとられるくらいなら……もう、いっそのことここで────」
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