エルピスの花嫁~双子の神様に愛されて~小説版
「は、はい!?」

 驚いて飛び上がりそうになりながら、反射で返事をしてしまう。
 ゆっくりと立ち上がってドアスコープを覗くと、さっきと同じ顔があった。でも、さっきはしていなかったマスクをしていて、髪も黒のストレート。瞳の色も赤みの強い茶色をしている。

 ――双子?

「弟が急に済まない。俺たちは高良喜久の紹介で来た」

 ドアスコープの向こうでマスクがずらされ、落ち着いた声が聞こえてくる。
 マスクを外すと、やっぱりさっきの人と同じ顔だった。
 髪の色とか雰囲気とか全然違うのに同じ顔。なんだか、不思議な感じ。

「パパの、知り合いなの?」

 黒髪の彼が口にした名前――高良喜久はパパの名前だった。
 海外でも仕事をしているパパの知り合いって考えると、不思議はなかった。でも、私に会いたかったってどういうことだろう。

「俺たちのこと、聞いていないのか?」

 ドア越しに返事をした私の言葉に、困ったような声が返ってくる。

「聞いてないです!」 

 そんな声を出されても、私も困ってしまう。
 パパから海外の知り合いが訪ねてくる話なんて聞いてないし……うーん、もしかして昨日の取って置きのプレゼントってこの花束のことで宅配を頼んでた? でも、パパからのプレゼントなら昨日のメッセージみたいに珠子って下の名前だけだろうし、私のフルネームが入ってるなんてなんかおかしい。猫っ毛の彼からのプレゼントって、感じがする。

「そうか……それは済まないことをした。なにか手違いがあったのかもしれない。改めて出直すことにする」

 私が一人で悩んでいると、声が遠のいた。
 慌ててドアスコープをもう一回除くと、黒髪の彼がぺこりと頭を下げていた。
 振り返って猫っ毛の彼と何かを話していたけど、内容までは聞き取れない。
 猫っ毛の彼は渋るような仕草をしていたけど、黒髪の彼に説得されたみたいで大人しく二人並んで帰っていくのが見えた。
 ドアスコープから二人の姿が見えなくなって、ホッと息を吐いた。

 なんだったんだろう。

 小首を傾げながら靴箱の上の時計を見ると、
 二人が玄関の前から立ち去っていくのが見えて、ホッとする。
 ようやく気持ちが落ち着いて靴箱の上にある時計を見ると、とっくに家を出る時間を過ぎていた。

「いけない、遅刻しちゃう!」

 ちょうど家を出るところだったから、思わずそのままチャイムの音に扉を開けちゃったんだった。
 慌てて家を飛び出しても、あの二人の姿はどこにもなかった。
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