ポケット
『美桃、仕事が楽しいって言ってただろ?妊娠したら仕事を楽しむどころじゃなくなる。ちゃんとプロポーズするまでは触れるのを控えようって思ったんだ。一度触れたら、きっと止められなくなって美桃の人生計画を狂わせるかもって思うと怖かったから』

美桃の胸に安堵と幸せが広がっていく。颯星が触れなくなったのは、美桃を大切に想っているからだったのだ。美桃の口から笑い声が漏れる。

「私、その先輩みたいに人生計画きっちり立ててるわけじゃないから、そんな心配しなくてよかったのに。むしろこっちとしては、飽きられたんじゃないかって不安だったんだけど」

『ご、ごめん!まさかそんなことを考えていたなんて……』

申し訳なさそうに言う颯星に対し、美桃は指輪を見つめながら言った。

「申し訳ないと思ってるなら、今すぐ私のところに来てよ。それで、今度は顔を見てプロポーズして!」

『わかった。すぐに行く』

颯星はそう言うと電話を切ってしまう。美桃は頰に熱が集まるのを感じながら、二度目のプロポーズを待つことにした。
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