君との恋のエトセトラ
「よーし!二次会はいつものカラオケな!」

居酒屋を出ると、当然の流れのように皆は行き慣れたカラオケ店を目指して歩き出す。

肩を組んで陽気にしゃべりながら歩く皆の後ろで、航は腕時計に目を落とした。

(もう22時過ぎか。お開きは終電ギリギリだろうな。いや、彼女の家が遠ければ終電を逃してしまうかも…)

そう思いながら、後輩の戸田と話しながら歩いている凛を振り返る。

にこにこと愛想良く振る舞っているが、足取りが少し危うい。

「戸田、悪い。さっきの店に忘れ物した。取りに戻るから少し遅れると木原に伝えてくれるか?」

立ち止まって声をかけると、戸田は「分かりました!」と言って木原の方へ小走りで駆け寄って行く。

その後ろ姿を見送ると、航は凛に「行こうか」と告げて反対方向へ歩き始めた。

「え?あの…。どちらへ?」

戸惑う声を背中に聞きながら大通りに出てタクシーを止めると、どうぞと促す。

「あ、はい」

ためらいがちに乗り込む凛に続いて、航も後部座席の隣に座った。

「うちはどこ?送っていくよ」
「え?そんな、二次会は?」
「行かなくて大丈夫。つき合ってたら身が持たないよ。ましてや君は女の子だ。こんな遅くまで出歩くのは危ない。住所は?」
「えっと、では最寄りの駅までお願いします。そこから電車で帰りますから」

航は思わずぷっと吹き出す。

「運転手さんに『最寄りの駅まで』なんて言ったら、即座に『着きましたよ』って言われるよ」
「ええ?!どうしてですか?」
「だって、すぐそこだもん。ほら」
「あ、確かに」

航が指差した先には、地下鉄のサインがあった。

「すごいですね、都会って。こんなにあちこちに駅があるんですね。では私は地下鉄で帰ります。ありがとうございました」

そう言って降りようとする凛を、航は慌てて止める。

「ちょっと待って!お願いだから送らせて。ここまで来て一人で電車で帰らせるなんて、男として情けない。それに、ほら。運転手さんも待ってるから」
「あ!すみません。ではお願いします」

凛はマンスリーマンションの場所を説明した。
< 10 / 168 >

この作品をシェア

pagetop