君との恋のエトセトラ
第二十四章 帰省
ある日のこと。
Moonlightを訪れていた凛と航は、打ち合わせを終えてオフィスに戻ろうとしていた。

少し歩き始めたところで、凛のスマートフォンがポケットの中で震える。
表示を見ると、妹からの電話だった。

(杏?珍しいな)

いつもはメッセージを送ってくる妹が、こんな昼間に電話をしてくるのは初めてだ。
と思った次の瞬間、凛はハッと顔色を変える。

(もしや、お母さんに何か?!)

思わず立ち止まり、航に声をかけた。

「河合さん、すみません。電話に出てもよろしいでしょうか?」
「ん?ああ、もちろんどうぞ」

そう言うと航はさり気なく凛から遠ざかる。
凛はすぐさま通話ボタンをタップした。

「もしもし、杏?どうかしたの?」
『お姉ちゃん!お母さんが、お母さんが!』

今にも泣き出しそうな、杏の悲痛な声が耳を突き抜ける。

「落ち着いて、杏。お母さんがどうしたの?」
『学校から帰ってきたら、お母さんが布団の中で苦しそうにしてて…。お母さん!大丈夫?お母さん!』

杏の様子からして、母は今も苦しそうにしているのだろう。

凛は小さく息を整えてから電話に向かって呼びかける。

「杏、聞こえる?杏?」
『お姉ちゃん!どうすればいい?』
「落ち着いてよく聞いて。お母さんは意識はあるの?」
『うん。苦しそうだけど、大丈夫って言ってる。でもすごく息が荒くて』
「分かった。すぐに笠原先生に向かってもらうから、杏はそのままお母さんのそばにいて。いい?まずは杏が落ち着くのよ。大丈夫、お母さんは必ず助かるから」
『うん、分かった!お姉ちゃん、私、お母さんについてるから』
「お願いね、杏」

凛は電話を切ると、すぐに連絡先リストを開いて『笠原医院』の項目を探す。

いつの間にか航がそばに戻っていた。

「救急車を呼んだ方がいいんじゃないか?」
「私の田舎には急患を受け入れる救急病院はありません。遠くの受け入れ先が見つかっても搬送されるまで下手したら1時間くらいかかります。それよりもまずは、近所の腕のいいお医者さんに診てもらった方が」
「分かった」

凛が早口で説明すると、航はすぐさま頷く。

「もしもし、笠原先生?立花のところの凛です。母が息苦しそうにしていると杏から電話がありまして。先生、様子を見に行って頂けませんか?はい、よろしくお願いします」

電話を切ると、すぐに杏にかけ直した。

「もしもし、杏?笠原先生がすぐに向かってくれるって。自転車で5分で着くから待っててって。もう大丈夫だからね」
『うん!お姉ちゃん、ありがとう』
「えらかったね、杏。先生が来るまで、もう少しお母さんについててあげてね」
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