花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
「携帯、携帯」

 アルコールの影響は抜けきったのか、呟きつつマスターへ電話しようと探す。

「香さん、マスターがお好きなんですか? もしくは言う事を聞いてくれるなら誰でもいいのですか? どちらです?」

「どちら……そもそも課長に関係ないです」

「あります。あなたは私と結婚を前提としたお付き合いをするのですから。社長から話をされましたよね?」

「勝手に決めないで下さい! 私は政略結婚など絶対しません! 父から聞きませんでした?」

 社長を介したやりとりは、お互い伝えたい旨を言うだけで噛み合わない。

「質問の答えがまだですよ。私でもワガママをきいてあげますし、カレーも作れます」

「そんな誰でもいいみたいな言い方、やめて!」

「もちろん、流石に誰でも良くはないでしょう。経済力を伴わない男はあなたに相応しくない。例えば、元恋人であるバンドマンのような、ね?」

 探し当てたバッグを抱え、宮田香はこちらを睨む。
 そのバッグとて給料の何ヶ月分の価格で、シワになったワンピースも仕立てが良い代物だ。彼女は高価かつ上質な品をナチュラルに選ぶ。貧乏などした事がなく、これからもさせる気は毛頭ないが。

「マスターに軽々しく自分をお嫁さんにしないかと尋ねてましたが?」

「盗み聞きですか? 悪趣味。どうせ私の素行調査もしたんでしょうね。結果はいかがでした?」

「毛並みのいい野良猫ーーと思いました」
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