花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?

花森Side



 時間は夜の十時を刻もうとしている。目下に煌々と輝く部署があり、黙々と作業をする宮田香の姿を見付けた。

 ーーコンコンコン、部長室のドアが鳴る。
 まだ課長である私は正式にこの部屋の主ではない。使用許可した相手が訪ねてきた。

「こんばんは、精が出るね。俺の可愛い妹をストーカーしてるのかな?」

 ひょっこり顔を覗かせ、ウィンク。お茶目な副社長の登場だ。堅苦しくない振る舞いが今時のリーダーっぽいが、一筋縄でいかない相手でもある。

「人聞きが悪いですね。見守っていると言って下さい。あと一時間経ったら解散させます。残業代もかさみますしね」

「残業代か、俺達は出ないもんなぁー」

 真新しい応接セットに遠慮なく座り、ソファーの背へ姿勢を預ける。

「煙草、吸っていい?」

「禁煙です。社としても勤務中の喫煙を禁止しております」

「はぁ、お堅いねぇ。香に何十万と貢いだ男とは思えない。おい、スケベなドレス、買ってないだろうな?」

「なんですか、スケベなドレスとは。肌の露出が最低限なものをお選びしましたよ」

「花森、むっつりタイプだな。俺には分かる! 男が服をプレゼントする理由なんて1つしかねぇ」

 煙草が吸えず、口寂しそうな副社長へコーヒーを淹れる。

「っーー苦い! 砂糖を入れてくれよ」

「あ、申し訳ありません。副社長の好みの味など知らないので。にしても、パーティーの件は出し抜かれましたよ」

 シュガーポットを静かに置く。

「まぁな。今回は父が社長として最後のパーティー、香にも出て欲しいんだ」

「私も何度か宮田家主催のパーティーに参列しましたが、香さんを見掛けた事がありません」

 カップに砂糖を三つ、四つと沈め、副社長は長く息を吐く。

「あの見た目で、あの気性。みなまで言わなくても分かるだろう? 下手に口説いてみろ、引っ掻かれる。
 せっかくのハレの日に怪我人を出す訳にはいかない、お姫様の護衛はよろしく頼むよーー花森部長」

「課長です。副社長が社長となった時、部長職を賜る契約ですから」

「しかも、香との交際を認めるのが入社の条件とは愉快な男だ。どうだい? 付き合えそうか?」
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