花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?
花森部長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?


 パーティーが終わり、部長の部屋へ帰ってきた。その途端、後ろから抱き締められる。

「帰ったらという約束でしたよね? 脱がしても宜しいでしょうか?」

「……課長、疲れてないんですか? というより、いきなりはムードがないです」

 とか言いつつ、私はこれといった抵抗をしない。暴れたりせず大人しくした。

 まずシャワーを浴び、髪を乾かしてなど段取りが巡るものの、このまま課長の匂いに包まれるのもいい。
 既に帰りの車内でこういう雰囲気は出来上がっており、信号待ちの際に軽いキスを交わしていた。

「ムードですか。もう気持ちは作れているのですけどね。まどろっこしく口説くより、抱かれてしまう方が私の心が伝わります」

 ジジジッ、ファスナーを降ろす音が響く。どうやら課長は噛んで開けていて、唇が素肌を掠めていく。

「でも玄関で裸にされるのは愛を感じません」

 姿勢を回転し、課長のネクタイを引っ張てみた。私こそ言葉にして心を伝えていないが、ご自慢のテクニックとやらで暴いたらいい。

「その好戦的な瞳、堪りませんね。ご要望通り、寝室へ案内します、お嬢様」

 課長にならお嬢様扱いされても良い気分となれる。ハイヒールを落とした爪先は持ち上がり、抱えられて寝室へ向かう。
 最低限の家具しかないリビングを横切った際、悪戯を思い付く。

「ひとつ、お願いがあるの。聞いてくれる?」

「なんなりとお嬢様」

「実家にあるグランドピアノをここへ運んでもいい?」

「ーーグランドピアノですか? これはまた凄い嫁入り道具ですね。重量や音漏れが懸念されるので即答はしかねますが、善処しましょう。他には?」

「他?」

「他におねだりは? 欲しい物、やってみたい事柄なんでも言ってみて?」

 私をキングベッドに座らせ、課長は片膝を立てて側へ控える。
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