花森課長、もっと分かりやすく恋してくれませんか?

花森Side



 宮田香の酒癖の悪さは調べてあった。酔い潰れた彼女を自宅へ運び込み、ネクタイを緩める。

 ーーさて、これからどうしてやろうか。

 考えを巡らす際の癖で顎に手をやるとヒリつく。皮が剥けていた。

 この引っかき傷の犯人はタクシー内で暴れ、それはそれは酷い有り様だった。人を蹴って殴って頭突きをお見舞いし、感情面の起伏も激しく、泣いて怒って笑い転げる。
 どうしてやるかの選択肢から寝込みを襲う事を除外するほど、私は気力を消耗してしまう。

 こんなジェットコースターみたいな女性の何処がいいのか、我ながら自信が持てなくなる時がある。なんなら現在進行系で不安だ。
 それでもベッドで丸まる宮田香は長年焦がれたその人であり、やはり感動する。

 悪態をつかず乱暴も働かない姿は眠れる森の美女と喩えたっていい。ただし、彼女に王子様の口付けで目覚める殊勝さがなく、ものの数分で私のベッドの主となった。

 しばしお姫様を見下ろしていたが、副社長へ連絡しなくてはと思い出す。廊下に出てから通話ボタンを押した。

「お疲れ様、俺の妹に悪戯してないだろうな?」

 開口一番、これだ。副社長は年の離れた妹を溺愛している。

「してません。意識の無い人をどうこうする気はないです」

「で、例のプロジェクトの話はした? 身内からするより花森に言われた方が喜ぶだろう」

「そうでしょうか? 正当な評価をしようにも、彼女が私達にフィルターをかけてしまってますし。どうすれば本心が伝わるのやら」

「香を諦めるのか?」

「まさか! 何の為に宮田工業へ入社したと思ってるんです?」
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