【中編版】スパダリ煎茶家は、かりそめ令嬢を溺愛包囲して娶りたい。


「昂は……自分の身分や立場、肩書きを捨てても愛する人……あなたのお母様と共に生きたいと言ったのです。当時、私の夫は猛反対して無理やり昴に対し縁談を用意した」

 彼女は「だけど、あの子はお見合い前日に駆け落ちをしたの」と言ってふふっと笑った。


「私は、あの子があんな度胸がある子なんて知らなかった。それまではとてもいい子で、そんなことしない子だと思っていたからね。それから何年した頃かしら……五年ほどして、主人が亡くなった。そのことを知ったのか昂から久しぶりに手紙が届いてあなたのことを知ったの。あなたが生まれたって。可愛い愛娘が生まれましたって。それにあなたのお母様の和菓子屋で和菓子職人になったことも、お手紙には書いてあった。親不孝者の息子でごめんって、ね」

「そう、なんですね」

「えぇ。それなのに、あの子たちと来たら早死にして娘を一人残して逝ってしまったのね……それは仕方ないわ。あなたには婚約者がいたようだし幸せにやっていけるのではないかと思っていて会うのは辞めたの。けど、まさか借金していたなんて思わなかったのよ。それに婚約者に浮気されていたとは思わなかった……だからね、千愛さん!」


 そう言って由良乃さんは立ち上がり、私の手を取った。思わず「えっ」と声が出てしまう。


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