愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 泣き顔を見せたくなくてギリギリのところで持ちこたえてはいるものの、寂しいのは私も同じだ。

 ただ、それにしても父の抱擁は長い。そして、感情表現がストレートすぎる。
 片隅にいるとはいえ、人影がまったくないわけではない。年頃の娘としては周囲の目も気になるところで、複雑な心境になった。

 小さく体を捩りながら隣の千隼さんをそろりと伺えば、それに気づいた彼が苦笑を返してくる。

 千隼さんとは、以前から顔見知りの仲だった。それが今では夫婦という関係にあるのだから、つくづく未来はわからない。

 ただ、私たちは恋愛感情で結ばれたというわけではない。
 三カ月ほど前に突然、彼とお見合いをすることになったのだ。

 きっと形ばかりのものだろうと考えていたにもかかわらず、話はとんとん拍子に進んでいく。そうして私たちは、数日前に婚姻届を提出していた。

『二十五歳で、もう嫁いでしまうなんて……』

 私の結婚を早すぎると、父はことあるごとにぼやく。なんなら、ここへ来るまでの間も愚痴をこぼしていたくらいだ。

 そもそも彼との縁談を薦めてきたのは父の方だとういう事実を、完全に忘れていないだろうか。

 世間一般に言われる、娘を嫁がせる父親の心境はなんとなくわからなくもない。私を思いやる父の気持ちは本当にうれしいし、自分も同じように返したい。

 ただ、それにはときと場を考えるべきだと父に言いたい。
 なにも今生の別れというわけではないのだから、そろそろ泣き止んでもいいんじゃないかと、父の背をポンポンと優しく叩いた。
< 3 / 154 >

この作品をシェア

pagetop