孤独な少女は優しさに堕ちていく。
♢♢♢
『ぼくがしんだのは、ねぇちゃんのせいだ。それなら、ぼくのためにしんでくれるよね』
碧葉が、小さくて、私のことが大好きだった碧葉が、私にそう言い放った。
そしてゆっくりと姿を消す。
次の瞬間、大きなトラックが私に向かってものすごいスピードで突っ込んでくる。
「ーー」
自分の声にならない声で目を覚ます。
はぁはぁと息が荒い。
秋の涼しい気温だとというのにパジャマは汗でびっしょり濡れている。
さっき見た碧葉が頭から離れない。
「あお、ば…」
はらりと一粒の涙がこぼれた。
大丈夫、大丈夫だから。
碧葉は、こんなことを言う子じゃない。
わかってる、わかってるのに、苦しくて仕方がない。
動きたくなかった。
長い間、布団の上で座り込んでいた。
私は初めて、砂浜に行かなかった。
私がやっと動き出したのは、目が覚めてから1時間もたった後のこと。
のっそりと立ち上がると、もう乾いてしまった汗を流すためにシャワーを浴びた。
雑に体を拭いて、制服を着る。
当然、朝食を食べる気なんて起きなくてそのまま家を出た。
先に行くね、と梨奈にメールをし、一人で電車に乗る。
本当は、学校にも行きたくなかった。
でも、文化祭のシフトが入っている。
梨奈に変わって貰おうかとも思った。
だけど、1年に一度しかない文化祭で梨奈に迷惑をかけたくない。
いつもより早い時間に来た学校だけど、文化祭の日ということもあって、半数近い生徒が教室にいた。
私は、朝イチから午前中はずっとシフトが入っている。
少し早めに着替えることにした。
更衣室に行って、昨日着たばかりのメイド服に腕を通す。
鏡を見ると、青白い顔をして、濃い隈をつけた自分が映っていた。
さすがにヤバイと思って軽くメイクをする。
明るすぎるぐらい明るいコンシーラーを塗って、チークで頬に赤みを持たせる。
ピンクのグロスを唇に塗ったら、ほぼいつも通りの自分が出来上がった。
こんなに明るい色を塗りたくっても、よく見ると顔色が悪いことがばれてしまう。
自分の顔色は相当悪いらしい。
軽く口角を上げて笑顔の練習をする。
昨日以上に違和感のある笑顔だが、今日はこれで乗り切るしかない。
更衣室を出ると登校している生徒の数が増えていた。
文化祭ということもあり、今日はHRがない。
梨奈に会わないように準備が進められている校内を歩き回ることにした。
みんなが楽しそうに準備する様子はいつも以上に活気があって、余計に私の心を重くさせた。
さっきからひっきりなしにスマホが鳴っている。
きっと梨奈が私を探しているのだろう。
学校中を一周してしまって再び教室に戻ってきた。
もうすぐシフトだし、教室に梨奈はいなかったので、もう歩き回るのを辞めた。
文化祭の開始時刻が迫っている。
あと1分、あと30秒…
「オープンです!!」
遠くから文化祭実行委員の声が聞こえた。
たくさんのお客さんが学校に足を踏み入れる。
始まってから1分もすれば、メイドカフェにも人が集まり始めた。
昨日の比じゃないぐらいの人の量だ。
なんども注文を聞き間違えたり、運び間違えたりした。
今朝の夢を引きずっているだけでなく、慢性的な寝不足でもあるので、時々視界がくらりと傾く。
「ごめんね、俺が頼んだのはコーヒーかも、」
男性の席にパンケーキを運んだときに言われた。
「ぁ、申し訳ありません。今、取り替えます」
「乙葉ちゃん、大丈夫?」
名前を呼ばれてハッと顔をあげると千景さんが、こちらをのぞき込んでいた。
「千景さん…、なんで、」
「今日乙葉ちゃん来なかったし、暇だったから来てみた」
わさわざ来てくれたらしい。
「そうなんですか…大丈夫です。いつも通りです」
「そっか、ならいいけど」
「すぐコーヒー持ってきます」
「ゆっくりでいいよ」
優しい千景さんの声を遠くに聞きながらキッチンへ急ぐ。
今度は無事コーヒーを届けることができた。
「教室の前で待ってるからシフト終わったら声かけて」
千景さんはお会計の時にそう言って出て行った。
その後もミスを連発したので、半ば呆れた委員長さんに「先に上がっていいよ」と言われ、予定より30分くらい早く上がることになった。
千景さんを待たせるのも申し訳ないので、メイド服のまま教室の外に出る。
廊下の壁にもたれかかって立っている千景さんはものすごく絵になっていた。
大きめの白いパーカーに黒いズボンをはき、ズボンの黒よりも少しだけ薄い色の上着を羽織っている。
毎朝会っている相手なはずなのに場所が学校だと話しかけるのをためらってしまう。
「乙葉ちゃん」
千景さんが私に気づいて声をかけてくれた。
「シフト、終わりました」
「そっか、ここはあれだから移動しようか」
千景さんは、スイスイと迷いなく校舎を歩いていく。
なぜだろう、と思ったけどここが千景さんの母校であることを思いだした。
千景さんは立ち入り禁止のテープを堂々と超えて空き教室に入っていった。
誰かに見られてしまっていないかと周りのを見回すも、みんな別のことに夢中でこちらを見ていなかったようだ。
もう一度周りを見てから、千景さんを追いかけて空き教室に入る。
ぽんぽんと自分の隣を叩く千景さんの隣に座る。
「乙葉ちゃん、なにか俺に隠してることない?言いたくないならそれでもいいけど、言葉にするだけで楽になることもあるかも知れないよ」
「…」
「ゆっくりでいいから話してみない?」
たたみかけるように千景さんが言う。
「……、中2の時、両親と弟が事故で、…」
『ぼくがしんだのは、ねぇちゃんのせいだ。それなら、ぼくのためにしんでくれるよね』
碧葉が、小さくて、私のことが大好きだった碧葉が、私にそう言い放った。
そしてゆっくりと姿を消す。
次の瞬間、大きなトラックが私に向かってものすごいスピードで突っ込んでくる。
「ーー」
自分の声にならない声で目を覚ます。
はぁはぁと息が荒い。
秋の涼しい気温だとというのにパジャマは汗でびっしょり濡れている。
さっき見た碧葉が頭から離れない。
「あお、ば…」
はらりと一粒の涙がこぼれた。
大丈夫、大丈夫だから。
碧葉は、こんなことを言う子じゃない。
わかってる、わかってるのに、苦しくて仕方がない。
動きたくなかった。
長い間、布団の上で座り込んでいた。
私は初めて、砂浜に行かなかった。
私がやっと動き出したのは、目が覚めてから1時間もたった後のこと。
のっそりと立ち上がると、もう乾いてしまった汗を流すためにシャワーを浴びた。
雑に体を拭いて、制服を着る。
当然、朝食を食べる気なんて起きなくてそのまま家を出た。
先に行くね、と梨奈にメールをし、一人で電車に乗る。
本当は、学校にも行きたくなかった。
でも、文化祭のシフトが入っている。
梨奈に変わって貰おうかとも思った。
だけど、1年に一度しかない文化祭で梨奈に迷惑をかけたくない。
いつもより早い時間に来た学校だけど、文化祭の日ということもあって、半数近い生徒が教室にいた。
私は、朝イチから午前中はずっとシフトが入っている。
少し早めに着替えることにした。
更衣室に行って、昨日着たばかりのメイド服に腕を通す。
鏡を見ると、青白い顔をして、濃い隈をつけた自分が映っていた。
さすがにヤバイと思って軽くメイクをする。
明るすぎるぐらい明るいコンシーラーを塗って、チークで頬に赤みを持たせる。
ピンクのグロスを唇に塗ったら、ほぼいつも通りの自分が出来上がった。
こんなに明るい色を塗りたくっても、よく見ると顔色が悪いことがばれてしまう。
自分の顔色は相当悪いらしい。
軽く口角を上げて笑顔の練習をする。
昨日以上に違和感のある笑顔だが、今日はこれで乗り切るしかない。
更衣室を出ると登校している生徒の数が増えていた。
文化祭ということもあり、今日はHRがない。
梨奈に会わないように準備が進められている校内を歩き回ることにした。
みんなが楽しそうに準備する様子はいつも以上に活気があって、余計に私の心を重くさせた。
さっきからひっきりなしにスマホが鳴っている。
きっと梨奈が私を探しているのだろう。
学校中を一周してしまって再び教室に戻ってきた。
もうすぐシフトだし、教室に梨奈はいなかったので、もう歩き回るのを辞めた。
文化祭の開始時刻が迫っている。
あと1分、あと30秒…
「オープンです!!」
遠くから文化祭実行委員の声が聞こえた。
たくさんのお客さんが学校に足を踏み入れる。
始まってから1分もすれば、メイドカフェにも人が集まり始めた。
昨日の比じゃないぐらいの人の量だ。
なんども注文を聞き間違えたり、運び間違えたりした。
今朝の夢を引きずっているだけでなく、慢性的な寝不足でもあるので、時々視界がくらりと傾く。
「ごめんね、俺が頼んだのはコーヒーかも、」
男性の席にパンケーキを運んだときに言われた。
「ぁ、申し訳ありません。今、取り替えます」
「乙葉ちゃん、大丈夫?」
名前を呼ばれてハッと顔をあげると千景さんが、こちらをのぞき込んでいた。
「千景さん…、なんで、」
「今日乙葉ちゃん来なかったし、暇だったから来てみた」
わさわざ来てくれたらしい。
「そうなんですか…大丈夫です。いつも通りです」
「そっか、ならいいけど」
「すぐコーヒー持ってきます」
「ゆっくりでいいよ」
優しい千景さんの声を遠くに聞きながらキッチンへ急ぐ。
今度は無事コーヒーを届けることができた。
「教室の前で待ってるからシフト終わったら声かけて」
千景さんはお会計の時にそう言って出て行った。
その後もミスを連発したので、半ば呆れた委員長さんに「先に上がっていいよ」と言われ、予定より30分くらい早く上がることになった。
千景さんを待たせるのも申し訳ないので、メイド服のまま教室の外に出る。
廊下の壁にもたれかかって立っている千景さんはものすごく絵になっていた。
大きめの白いパーカーに黒いズボンをはき、ズボンの黒よりも少しだけ薄い色の上着を羽織っている。
毎朝会っている相手なはずなのに場所が学校だと話しかけるのをためらってしまう。
「乙葉ちゃん」
千景さんが私に気づいて声をかけてくれた。
「シフト、終わりました」
「そっか、ここはあれだから移動しようか」
千景さんは、スイスイと迷いなく校舎を歩いていく。
なぜだろう、と思ったけどここが千景さんの母校であることを思いだした。
千景さんは立ち入り禁止のテープを堂々と超えて空き教室に入っていった。
誰かに見られてしまっていないかと周りのを見回すも、みんな別のことに夢中でこちらを見ていなかったようだ。
もう一度周りを見てから、千景さんを追いかけて空き教室に入る。
ぽんぽんと自分の隣を叩く千景さんの隣に座る。
「乙葉ちゃん、なにか俺に隠してることない?言いたくないならそれでもいいけど、言葉にするだけで楽になることもあるかも知れないよ」
「…」
「ゆっくりでいいから話してみない?」
たたみかけるように千景さんが言う。
「……、中2の時、両親と弟が事故で、…」