シェフな夫のおうちごはん～最強スパダリ旦那さまに捕まりました～

　※

　明人の知らないところで女子社員たちは噂話に花を咲かせていた。女子トイレの中でメイク直しをしている彼女たちは明人の豹変ぶりにたいそう驚いているようだ。

「ねえ、穂高さんイメージ変わったと思わない？」
「結婚してから柔らかくなったわよね。前の彼女のときはピリピリしてたのに」
「しっ、それは言わないの」
「今日は来社してないでしょ？　あの人」

　彼女たちはクスクス笑ったあと、明人の妻の話題になる。

「奥さん同じ会社でしょ。誰だっけ？」
「ほら、庶務の子じゃない？　地味な子だって聞いたわよ」
「信じられないよね」
「でもさ、秘書課の子ざまぁって感じ。あからさまに狙ってたでしょ」
「言えるー」

　きゃっきゃっとおしゃべりとメイク直しを済ませた女子社員たちは揃ってトイレを出ていく。その直後、個室のドアが開いてスーツを着たひとりの女が出てきた。
　芦田利香、明人の元カノだ。
　利香はぎりりっと歯噛みしながら拳をぎゅっと握りしめてぼそりと呟く。

「庶務課の地味な子ですって？　どうしてなのよ、明人。あなたにそんな子は似合わないわよ」

　利香は鏡の前で自分の顔をまじまじと見つめる。そして僅かに口角を上げた。

「そうよ。まだ間に合うわ。子どもができる前に別れさせれば……」

　利香は鏡に映る自分を見つめながら赤いルージュを塗りたぐった。