憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 ブルーインパルスを操縦している人たちは、こうした催しなどで演習を披露するために集められた自衛隊の人たち。

 戦闘機のパイロットとして経験を積んできた人たちの中から選ばれる。
 任期は三年で、延長などはなし。
 そんな基礎知識、興味がなければ知る機会などないわよね……?

 私は正常と異常の判断がつけられず、どうしたものかと頭を悩ませる。

 彼は哀愁漂う顔で空を優雅に舞うブルーインパルスを見つめながら、話を続けた。

「戦闘機のパイロットには、常に命の危険がつきまとう。不測の事態は旅客機にもつきものだが、生存確率だけで言えば……比べるまでもない」

 今は比較的平和な情勢ではあるけれど、人生何が起こるかわからない。
 常に最悪の場合は想定しておくべきだ。

 もしも、どこかの国と戦争になったら。
 自衛隊員は真っ先に駆り出される。

 戦時中のように、自らの命よりも時には国を優先する必要も出てくるだろう。

「俺がLMMのパイロットになったのは……金持ちのボンボンに、自衛隊員は務まらないと言われたことが大きい」
「……誰に?」
「お義父さんだ」
「なんでまた……」

 航晴のご両親が住む三木邸は、元々別荘として利用するために購入した家であるらしい。
 先祖代々あの地に根づくお父さんは、季節の節目に顔を見せる彼を大層かわいがった。

「お義父さんは、俺と千晴を重ねていたのだろう。よく俺に、話してくれた。同じ年頃の、とてもかわいらしい娘がいると」

 目をかけて交流を深めていた航晴が戦闘機のパイロットになりたがっていると知ったお父さんは、全力で止めたそうだ。

 娘と結婚させるつもりだったのに、自分の知らないところで死んでしまうかもしれない職業を目指すなどとんでもない。
 手取り足取り教えるから、旅客機で我慢してくれと説得されたようね。

 彼はその説得を受け入れ、今に至る。

「実はな。千晴がLMMに入社する前、一度写真を見せてもらっている」
「写真……?」
「高校に入学した際の写真だ。お義母さんが、お義父さんに郵送で送付したらしい。あなたの娘は、立派に育ちましたと」

 彼は肌身離さず、焼き回しをした写真を持っていたようだ。

 胸ポケットから、新入生だというのに近隣のお姉さんから貰ったお下がりの制服に身を包んだ私の姿が出てきて、どうしようかと思ったわ。

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