憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「タクシーをお呼びいたしますか」
「いえ。迎えの車は用意してあるので必要ありません。お騒がせいたしました」
「いえ。ご来店頂き、ありがとうございました。またのお越しを、心よりお待ちしております」
「行こう」
「きゃ……っ!?」

 ハイヒールを履かせてくれた彼は、自らもまた革靴に履き替えると、当然のように私を横抱きにする。
 突如感じる浮遊感に目を白黒させながらパニックになってしまい、思わず首元に両腕を回してしがみついてしまう。

「お、落ちる……!」
「千晴の身体に傷をつければ、キャプテンが黙っていない。怖いなら、そのまま掴まっていてくれ」
「べ、別に!? 怖くないわ!」
「それはよかった」

 副操縦士の思い通りにするのが嫌でぱっと両腕を離せば、クツクツと声を押し殺したような笑い声が聞こえて来た。
 業務中に笑みを浮かべた姿など見たことのなかった私は、腕の中で暴れるのをやめて大人しくなる。

「もう、降参か」
「誰が白旗を上げたって!? 私はあなたのこと、受け入れたつもりなどないから!」
「そういうことにしておこう」

 彼は微笑むのを止めると、ロビーから外に出て歩みを止めた。
 タイミングを見計らったかのように、黒塗りの車が停車してドアが空いたからだろうか。
 彼は私を抱き上げたまま身を屈めると、車内に身体を滑らせる。

「なん、え……?」

 呆けているうちに外側からドアが閉まり、流れるような動作で車が発進した。

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