憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 どうして大事なことを相談せずに決めてしまうの?
 彼がいなければ、今頃そうやって泣き言を言いながら暴れていたところだ。
 弱みなんて見せたくないから、絶対に涙を流したりはしないけど。

「突然社長の娘だと宣言されても、受け入れ難いだろう。職場では暫くの間、峯藤を名乗り続けても構わない」
「あなたが決めるの?」
「キャプテンと奥様からの伝言だ。俺は職場とプライベート、双方から千晴を守るように仰せつかっている」

 彼は一体、何と戦っているのだろう。
 今まで何事もなく生きてこられたのだから、今更守る意味があるとは思えないのだけど……。
 二人のパイロットが心配性なだけだと思いたかった。

「必要ないわ。あなたは副操縦士よ。ボディガードではないのだから……」
「千晴のためなら、身体を張る。許婚として当然のことだ」
「話にならないわね。もしものことがあれば、あなたは操縦桿を握れなくなるのよ」
「構わない。千晴が命を落とすより、ずっといいはずだ」
「どうしてそこまで……」
「君のことを愛している。何度告白すれば、伝わるだろうか」

 残念だったわね。一生伝わることなどないと思うわよ。
 実は両片思いだったなんて……あまりにも、都合のいいように物事が進み過ぎている。
 梯子を外されるのが恐ろしいと感じた私は、あえてその気持ちに応えることはしなかった。

「私が天倉の娘であることを知った段階で、打ち明ければよかったんだわ」

 彼の告白を受け入れることなく、無視したからだろう。
 彼は申し訳なさそうに唇を噛み締めると、重苦しい口を開いた。

「ずっと黙っていて、すまなかった」
「あなたはいつから、知っていたの」
「すまない……」

 言わないってことは、あの人と一緒ってことね。
 最初から、知ってた。
 私が入社した時には、キャプテンの娘だと……。

「私をどこに連れて行くつもりなのよ」
「天倉の家だ。俺の家でも構わないが……」
「必要ないわ」
「着の身着のままさすらうのは危険だ。荷物はすでに運び込んでいる。申し訳ないが、耐えてくれ」

 何に耐えろって言うのよ。

 このままキャプテンが用意したレールの上を真っすぐ進めば幸せになれるのだから、大人しくしてくれ。
 そういう意味であれば、私のことを何もわかっていないのね。

 誰かに用意された人生を歩むなんて、真っ平よ。
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