憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 手を滑らせて地面に叩きつけられ、お母さんが血相を変えて飛んでいく姿が見えるわ……。

 一難去ってまた一難だけは勘弁してほしいと、その妄想をかき消したときのことだった。

「パイロットのこと、どう思っている」

 あの人の話題になるのを、見計らっていたのだろう。
 彼は硬い声音でこちらに問いかける。

 昨日感じたことは直接キャプテンに告げたつもりだったけれど、それだけでは満足しなかったようだ。

 ため息をつくと、息を整えてから言葉を紡ぐ。

「あの人は、一度も会いに来なかった。私たちのことを捨てたのよ」
「捨てたわけでは……」
「LMMに入社してからだってそう。5年も同じ職場で働いていたのに、あの人は父親だと名乗り出ることなどなかった。他人として生きてきたくせに、自分が辛いときだけお母さんに寄り添ってくる……最低な人間としか思えないわ」
「キャプテンはずっと、千晴に真実を伝えようとしていた」
「どうだか。思うだけなら簡単よ。行動が伴わなければ意味がない。どれほど過去に思いを馳せても。父親のいる幼少期は、戻ってこないだから……」

 あの人の気持ちに寄り添ってくれと言われても、無理なのよ。

 結果がすべてですもの。

 父親と認めたら、苦しんだ幼少期すらも……無駄になってしまうような気がするから……。

「……子どもの頃に、打ち明けてほしかったのか」
「当然でしょう。まぁ、幼い頃に社長の隠し子ですなんて祭り上げられたら、金遣いの荒い我儘娘に育っていたでしょうけど」
「そのようなことは……」
「それに、CAを目指そうとは思わなかったわ」

 あの人がいなかったからこそ、私はお母さんみたいなCAになって、苦労をかけた分だけ楽をさせてあげたいと思った。
 もしも、もっと早くにキャプテンが打ち明けてくれたとしたら――航晴とだって、もっと違った形で出会うはずだったのでしょうし。

 彼の言葉が本物であれば、たらればが実現していた場合は私たちが愛し合う未来だって存在しなかったはずよ。
 彼が愛する今の私とは異なる性格や経験を積んで、生きていたはずだから……。
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