憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 男性が泣く姿を見る機会など見たことがなかった私は、その姿が綺麗だと感じて心を奪われてしまったのだ。

 どうしよう。嫌いにならなくてはいけなかったはずなのに。
 ますます惚れて、どうするのよ!?

「千晴……」

 私は目を白黒させて、視線を泳がせる。
 直視は危険だ。
 彼に求められたら、応じてしまう自信があった。

 好きと言う気持ちが、溢れて止まらない。
 涙を拭って、唇で舐め取って。

 食べてしまいたいと――。

「……っ!?」

 とんでもない方向へ思考が旅に出て、帰ってこられなくなりそうになった時のことだった。

 ――スマートフォンの着信を告げる電子音が鳴り響いたのは。

 それは航晴の所持していたものから奏でられているらしく、当然のように左手を使って通話を始めた。

「どうした。ああ、すまない……すぐに向かう」

 相手は迎えに来たと連絡しても一向に姿を見せることがないから、トラブルに巻き込まれたのではないかと心配する運転手からだったようだ。

 彼は当然のように会計を済ませると、私を駐車場に誘った。

「ねぇ。対等な関係になると決めたなら、割り勘にするのが普通でしょう」
「……それは、夫婦になってからの話だ」
「あのくらいなら、私だって……!」
「もう支払ってしまった。金額がいくらかも覚えていない。このくらいは、させてくれ」

 金額を覚えていない? よく言えたものね。
 私はちゃんと、覚えているわよ。

 758円と、536円。1294円の支払い。
 あれくらいなら割り勘でなくても、支払えたのに……!

 航晴はどうしてこう、いい雰囲気になるとすぐにそれをぶち壊すような行動をするのかしら?

 ありがたくもあり、少しだけもったいないと感じるのは――見ないふりをするしかないわね。
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