憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「もう、馬車馬のように働く必要はないのよ。奨学金の返済だって、大吾さんが済ませてくださったし……」
「何それ。聞いてないだけど」
「お金のことは、気にしなくていいんだよ。たくさん苦労をかけて、申し訳なかった。これからは、自由に……」
「私が自分で借りて返すと決めたことにまで、口出ししてくるの?」
「千晴」
「だって、そうでしょ。マンションを勝手に解約して、奨学金も完済済み。金に物を言わるの、楽しい?」

 ああ、駄目だ。

 留めていなければならない思いが、溢れ出して止まらない。
 傷つけたくなどないのに。

 黙って受け入れらるのであれば、それだけで済む話なのだけれど――自分で自分を、コントロールできなかった。

「大吾さんは、千晴のことを思って……」
「大きなお世話よ! お金の力でなんでもかんでも解決するきらびやかな生活なんて、耐えられない! 私は普通に生きたいの! 貧乏だった時のほうが、マシだったわ! ここは窮屈で、ちっとも楽しくない! 私の人生に、関与しないで!」
「千晴……!」

 子どものように癇癪を起すなんて…………何度繰り返せば、学習するのだろう。

 夕食をどうにか完食すると、乱暴に席を立ちリビングを後にする。
 昨日とまったく同じ光景だ。
 違う点があるとしたら、それは逃げ帰る場所が外ではなく、自室になっただけ。

「千晴」

 階段を駆け上がり長い廊下を全力疾走して、自室に逃げ込む。
 広い部屋の中央で膝を抱えて蹲っていれば、聞きたくもない声が後方から聞こえてくる。

「……どうしていつも、追いかけてくるの」
「俺が君のことを、愛しているから」
「……嘘つき」

 誰でもいいから、助けてほしい。
 キャプテンよりも私を優先してくれる人を求めて、心が泣いている。

 優しい言葉を投げかけられたら、寄りかかってしまいそうだ。

 彼の手は取らないと決めたのに。

 私の苦しくて辛い思いと、あの人が胸に抱く後悔を理解できるのは、航晴しかいないから……。
 どうしてもあなたを、求めることをやめられない。

「心の奥に押し留めるよりも、発散したほうが良い」
「大きなお世話よ」
「何を言われても、俺が千晴を嫌いになることはない。安心して、ぶつけてくれ」
「そんなこと言われたって、信じられるわけないでしょ……!?」

 弱い自分を見せたくないから逃げてきたのよ。

 それなのに、追いかけてこられては意味がない。
 逃げ帰れる安全な場所など存在しないと言われているみたいで、気分が悪かった。

 わかっている。
 そんなのは、八つ当たりだって。

 むしろ航晴は、私の居場所になろうとしてくれているのよね。

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