憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 それは駄目だと思い描いた思考を打ち消し、業務に集中しようと気持ちを切り替える。

「三木副操縦士、お食事の時間ですよ~。阿部(あべ)機長にはもう渡したので、こっちを持ってコックピットまでお願いします!」
「変わってくれたり……」
「無理ですよ~。お嬢様じゃないと、めちゃくちゃ嫌そうな顔するって有名なんですから!」

 誰かに聞かれたら、言い逃れできないじゃない。
 どうするつもりなのよ。

 私は彼女をひと睨みしてから、搭乗前に副操縦士が選んだと思われる和食弁当を手にコックピットへ向かう。

 CAにはパイロットの健康状態を定期的に確認したり、食事や飲み物を提供する仕事が存在する。
 好みを把握し適切なタイミングで飲み物を提供するのが難しいとCAからは嫌煙されがちで、私はよくほかの人たちからこの役目を押しつけられていた。

 航晴が許嫁だと発覚する前までは、私はパイロットケアが大好きだったのよね。

 憧れの三木副操縦士と会話できる絶好の機会だから。
 でも、プライベートでいつでも言葉を交わせるようになった今となっては――。

「峯藤です。お食事をお持ちいたしました」
『入ってくれ』

 誰かに押しつけて、コックピットになんて顔を出さなくても済むようになればいいのにとしか思えなかった。

「おー! 峯藤ちゃん! いつもご苦労さん! また、三木のパシリ?」
「阿部機長……お疲れ様です」

 機長席に座っているのが父親ではないかと警戒して、一瞬身体が強張ったけれど、あの人は乗務停止中だ。
 ここにいるはずがない。

 暗い気持ちが吹き飛ぶような軽々しい口調で声をかけられ、引き攣った笑みを浮かべて適当に挨拶する。

「相変わらずつれねーの。ま、そういうところも好きだけど」
「――食事を取ります。機長、操縦に集中してください」
「へいへーい」

 阿部機長がこちらへ気のある素振りを見せたからだろう。

 航晴は食事を受け取ると、さっさと帰るようにと目配せしてくる。
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