プルメリアと偽物花婿
「さっき俺の寝顔見つめながら愛しいって顔してましたから」
「そんな顔してた?」
「はい。――違うんですか?」

 和泉の細い指が私の顎に添えられる。

「……違わないです」
「ですよね。良かった」

 そう言うと和泉は私をそっと離すと、ベッドから這い出た。

「俺フレンチトースト作るの得意なんですけど、朝ごはんにどうですか?」
「フレンチトースト大好き」

 私の返事に和泉は満足そうに頷いて部屋から出ていった。
 
 ……和泉を不安にさせてしまってた? 和泉は明るい口調を努めてくれていたけど。
 勘のいい和泉には、私の心を見透かされているのかもしれない。

 私っていつまでこうなんだろう。
 ハネムーンからずっとそうだ。婚約破棄されて、動けないでいたところを和泉に助けてもらった。
 恋愛初心者だからと言い訳をして、旅行中も和泉に流されて楽をしていた。
 山田さんの件も、同棲の件も、和泉に甘えっぱなしで、さらには菜帆にも甘えて。

 今までのことも、今回の山岡先生の件だって、全部私の心の中の問題だ。何か大きな悲劇的なことが起きたわけでもないのにずっとぐるぐる。菜帆的に言うとうじうじねちねちというやつだ。
 きっと優しい和泉は今回のことも、私が何かを言う前に察して甘やかしてくれる。

 ――だけど。もうこんな私は嫌だ。
 何かに言い訳して、和泉に甘えて、流されてばかりで。
 
 冷たい水を出して、顔を洗う。鏡にうつった自分に活を入れて、頬を叩く。
 
 リビングに入るとボウルをカシャカシャとかき混ぜている。
 私に気づいて「ちょっと漬け込むから待っててくださいねー」と笑顔を向けてくれる。

「和泉、食べ終わってからでもいいんだけど話があるの」

 緊張して硬い声が出た。かき混ぜながら和泉は私の顔をまじまじと見つめる。そしてボウルを置いたかと思うと、つかつかと私の元にやってきた。

「どうかした? なんか顔について――」

 聞き終える前に和泉にぎゅうと抱きしめられる。

「――別れないですよ」
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