プルメリアと偽物花婿
 チャペルの敷地内だから貸し切りなのは想定内だけど、ハワイといえばワイキキの賑やかな光景しか知らなかったので、落ち着いて誰もいないこの場所が奇跡のように思える。

「先輩、上見てください」

 和泉が頭上を指す。そこにはプルメリアの花。

「プルメリアの木……? プルメリアって木に咲くんだ」

 チャペルから出てすぐに、大きなプルメリアの木が四本程植えられている。それはトンネルのように私たちを見下ろしている。
 木には白い清楚な花がいくつも顔を出していて爽やかだ。

「プルメリアの花言葉って知ってます?」
「何、知らない」
「先輩と俺にぴったりだなあと思って」
「なんかロマンチックな言葉だったりする?」
「まあ、そういうことですね」

 そうやって笑う和泉はいつもの和泉だけど。
 誓いのキスの後の、一瞬傷ついたような和泉の顔が目に焼き付いて離れない。
 
 私の中途半端さが彼を傷つけていないか。甘えっぱなしじゃなくて、もう一度和泉とはきちんと話そう。

「ガーデン広いですねえ」
「ゲストがいたらここでガーデンパーティーもできるみたい」
「なるほど。それは確かにぴったりだ」

 私たちが話しているとコーディネーターが近づいてきて
「ではガーデンと、海をバックに写真撮影をしていきますね」と明るい笑顔を作った。

 私たちは偽物新郎新婦として、最後の仕事をこなした。
 ホテルよりも密着するポーズを指定されたりしてドキドキする羽目にはなったけど三十分ほどで撮影は終わり。
 行きと同じリムジンに乗って、ワイキキに帰っていく。
 
 私たちの偽物ウエディングはあっけなく終了した。
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