プルメリアと偽物花婿
 
 和泉は微笑みながら、スパークリングワインをグラスに注いでいく。

「俺は先輩が嫌がることはしませんよ。隣で眠るのも嫌なら、ソファもあります」
 
 和泉は私にグラスを渡すと、自分の分も注ぎながらソファに座った。

 広々とした部屋には大きなソファもある。長身の和泉が寝転べばさすがに足が出てしまいそうな気もするけど。

「凪紗先輩。結婚相手、誰でも良かったんでしょう?」

 和泉がニコ、と屈託のない笑顔を私に向ける。
 口に含んだスパークリングワインが冷たくひりついて、私は否定も肯定もできない。

「ここにぴったりなのがいますよ。身分保障、顔も良ければ仕事もできる。おまけに先輩を裏切ることは死んでもありません」

 喉まで移動した泡がシュワシュワと弾けていく。

「このまま本当に俺と結婚しましょうか」

 途端に和泉が知らない人に見える。
 私の前で口角を上げている和泉は、私よりもずっと余裕があって大人に見えて、可愛がっている三歳下の職場の後輩とは全く重ならなかった。
 日本から飛び出して、私は今非現実の真ん中にいる。
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