魅惑の絶対君主
プロローグ





「あのさ、返済期限とっくに過ぎてんだわ。てめぇは約束も守れねえのか?」



新しいアパートに引っ越してからこれまでの一ヶ月間、平和だったから油断してた。


逃げ切れたのかなって。
諦めてくれたのかなって。

呑気なことを考えてたけど、野蛮な借金取りさんの辞書に『逃がす』なんて言葉はどうやら存在しないみたい。



「オイなんとか言えよ!」


吹き曝しの廊下に怒号が響いた。


季節はもう夏に差し掛かろうとしているのに、足元から這い上がる冷気が体温を奪っていく。


ああ……また取り立てに怯える日々が始まってしまった。


街の外れにポツンと建っている入居者がほぼいないさびれたアパートだから、
ご近所に迷惑がかからないことだけは、不幸中の幸い……かな。

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