魅惑の絶対君主
置き去りの部屋






震えながら玄関をくぐった先に、お母さんの姿はなかった。


狭いアパートだ。

軽く見渡しただけで、中に誰もいないのは一目瞭然。


ハンガーに掛かっていたお洋服も、鏡台の上にあったジュエリーボックスも、棚に並んでいたバッグたちも、全部なくなってる。


バイト代を貯めていた金庫は開けっ放し。
……中は、空っぽ。



「……そんなはず、ない………」



これは悪い夢だ。


お母さんは昨日帰ってきて、『冬亜だけが頼りだよ』って言って抱きしめてくれた。


今朝だって、お夕飯はハンバーグを作ると言ったら『すっごく楽しみ!』って笑ってくれた……。


もし悪い夢、じゃなかったら、わたしは騙されてるんだ。

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