「 悪 」
憂
目を閉じれば聞こえてくる水滴の音は、消えかかる波紋と同時にノイズ音へと変わる。
空想のなかで映し出された世界は、我ながら鼻で笑えるほどの現実味のないファンタジーだ。
「るるる、るるる」
時代遅れの古びたテレビが、砂嵐からどこかの遊園地の映像に切り替わったとき、目がギョロっとしたウサギのような長い耳を持つ人形がメリーゴーランドに乗って歌いだす。
「おいで、おいで。どうせ死ねないのだから」
「一緒にいようよ。どうせ死ねないのだから」
上がり下がりを繰り返した不気味な声の主である人形は、回ったままのメリーゴーランドから降りるといつの間にか画面から姿を消した。
……なんなの、これ。
想像したくてしたわけじゃない、我ながらおかしな世界にため息を吐いて横たわっていたベッドに更に深く身を沈めると。
「どうせ死ねないくせに」
後ろから聞こえてくる声は、確かに立体感がある。
なぜだか止まらない冷や汗を垂らす。
恐る恐る目を端にやると、空想上の人形がいつの間にか私を抱き締めて口が歪むほど微笑んでいた。
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