好きを君に。

宝物



「藤崎が、好き」


卒業式。

意を決してあたしが言った一言に、藤崎が驚いたように目を丸くして。
その次の瞬間には、顔を歪めて、俯かせる。

「ごめん」 

しぼりだすようなその一言は、あたしの心を簡単に壊す。
顔を伏せた藤崎がそのときどんな顔をしていたのか、あたしには見えなかった。

「俺、高坂のこと、そんな対象として見たことない」

ああ、やっぱりそうなんだ。
千香の言うとおり、藤崎にとってあたしは、恋愛対象じゃないんだ。

「だって俺……俺、如月が好きなんだ」

……え?
千香が、好きなの?

まさかの現実に心が渦をまくようにこんがらがる。
上手く息が出来ない。

「俺、如月に告白しなきゃ! ごめんな高坂!」

そんなあたしを無視して、藤崎はきびすを返して走っていく。

え。ちょっと待ってよ!

ピピッ ピピッ

「ふじっ」

ピピッ ピピッ

藤崎を引き留めようと手を伸ばしたのに、あたしの足元が突然崩れる。


地面が、崩壊する。

世界も、崩壊する。


藤崎の背中に手を伸ばせば届きそうなのに。

手は虚空を掴んで、あたしはどこかわからないところに身体が落ちていって。

いつのまにか闇に呑まれて、

藤崎も、消えた。

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