好きを君に。
スマホのバイブが聞こえて、思わず見ると千香から先帰るよ?と連絡が来ていた。
「あ、あたし、千香のとこいかなきゃ」
「お、おう」
名残惜しい気もしたけど、一緒に帰るなんて選択肢もあたしには浮かばなくて。
あたしはスマホをスカートのポケットにしまうと、階段に向かった。
結局あたしたちって、どうするんだろ。
両思いになって、それからは?
「高坂」
階段を降りようとしたあたしに、藤崎が声をかけて。
肩越しに振り返ったあたしに、藤崎が手をあたしに差し出していた。
「え?」
「これ、やるよ」
お守りを渡してくれた時と同じようにグーの中になにかを握りしめていて、あたしの手に落とす。
落とされたものをみてあたしは目を白黒させた。
「俺の第二ボタン。仕方ないからやるよ」
あたしはふきだしそうになった。
必死に笑いを堪えながら、それを握りしめる。
「第二ボタンってさあ、学ランでしょふつう」
うちの学校はブレザーだ。
あとこういうのは自分から渡さないと思う。
「うるせえな。ありがたくもらっとけよ」
第二ボタンの意味をあまりよくしらなかったのか真っ赤になっている藤崎がおかしくて笑いが止まらなかった。
ほんと、あんたには叶わない。
「藤崎」
あたしは第二ボタンを上にかかげた。
「ありがとう。大事にする!」
「おう」
はにかむ藤崎にあたしも嬉しくなる。
「ーーまた、連絡してもいい?」
「……うん」
あたしが笑顔で頷くと、藤崎も満面の笑みを浮かべた。
その笑顔にやられる。
両思いになって、それから。
まだ、続きがある。
ここで終わりじゃない。
高校生になったら、会えるんだよね?
今度は、二人で。
「それじゃあ」
「うん」
別れを言って、あたしは走り出す。
走っている間も、ニヤニヤと笑いが止まらない。
「あ、千香! あたしも帰る!」
千香が教室から出ていくのをみつけて、あたしは千香を大きな声で呼び止めた。
その日はあたしにとって、忘れることができない中三の卒業式。
あたしたちはその後、全員無事高校に合格しました。