もう誰にも恋なんてしないと誓った
「賛成?何なのそれは!
 わたくしは早退してきたキャメロンに、ハミルトンから白紙にされてしまうと、お前とのことを今日初めて聞いたのよ!
 それから直ぐに、あちらの弁護士からも連絡が来て!
 わたくしがお前とキャメロンを甘やかしたから、王家から目を付けられたと旦那様に責められて!
 これから直ぐに領地を出ると電話をして来たオースティンからもなじられて!
 全く寝耳に水の話だったわ!
 うだつの上がらない、たかが子爵家のお前など!
 わたくしが一度だって、お前に嫁に来て欲しいと言った?
 賛成するわけがないじゃないの!」


 
 確かに、具体的に結婚とか嫁とか……そんな言葉は仰ってはいなかったかもしれないけど!
 娘にしたいは、キャムのお嫁さんになって、ということじゃないの?


 わたしに向かって一気にたたみかけてくるセーラ様の罵倒に、圧倒されそうになりながらも、わたしは一縷の望みをかけて尋ねた。
 

「……そんな……あんなにわたしのことを可愛がってくださっていたでしょう?
 シンシアのことだって、お気に召さないと……
 貴女とキャメロンはお似合いなのに、と仰せになったのは嘘だったのでしょうか?」

「あのハミルトンの娘、確かに気に入ってはいなかったわ。
 オースティンにならまだしも、キャメロンの嫁にするには小賢しいと思ったからよ。
 表向きはすました顔して忌々しいところが、オースティンとそっくりじゃないの。
 だけど旦那様とオースティンから、この縁組に異議を唱えるのは許さないと言われていたの。
 わたくしがあのふたりに反対が出来るわけないでしょう?」

 わたしの前では、侯爵閣下は自分のすることを認めてくれている、お兄様の言うことなど無視すればいいと言いながら、後妻のセーラ様には発言権なんか無かったんだ。
 それに王家から目を付けられた、って何?


「わたくしとキャメロンは、これからオースティンと入れ替わりで、領地で監視付きの謹慎と決まったわ。
 事が落ち着けば、旦那様はオースティンに譲位して領地に来るけれど、その時に改めてわたくしの処分を決めると仰られたの。
 だから今日会えるのが最後になるからと旦那様にお願いして、ジェーンとお前にお別れを伝えようと来てあげたのよ」


 
 以前のわたしなら、セーラ様にお別れを告げられたなら、大泣きしただろう。
 だけど今なら、サザーランド領で謹慎すると決まったセーラ様ともう会わなくて済むことに安堵した。
 それがわたしの表情に出ていたのかもしれない。
 

 話し出したセーラ様の、わたしを見つめる目はやたらギラギラしていて少しも笑っていないのに、その口調はとても楽しそうだった。


「ねぇアイリス、お前を可愛がる振りをするのは楽しかったわ。
 身の程知らずの娘がどんどん調子に乗っていくのを見るのが面白かった。
 もし本気でオースティンかキャメロンと結婚したいとわたくしに相談して来たら、その時は大笑いをしてやろうと楽しみにしていたのに。
 お前はそんな段取りも踏まずに、キャメロンを誘惑して……
 絶対にお前だけは許さない」

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