幼なじみは狐の子。
1子狐に変身する幼なじみ
キーンコーンとチャイムが鳴ってホームルームが終わった。
恋が時間割を書き写していると、駒井理央がやって来て声をかけた。
「恋、今日夜前に教えたテレビ番組あるよ。休み時間にも言ったけど。見るの忘れてがっかりしないように言っとく。」
「ありがと。」
「森についての番組なんて、なんで見たいのか私には分かんないけど。知りたい事でもあったの?。今日も上野くんと帰るんでしょ?」
「うん。」
斜め後ろの机の上に腰掛けていた上野宗介が、鞄を背負ったままこちらを向いた。
前で分けたさらさらの黒髪に整った顔立ち。
すっきりとした姿は拘りがなく、制服のシャツが似合う。
女の子に隠れファンが多い宗介は、品行方正で、普段からきちんとしているのが見て取れる。
宗介が口を開いた。
「恋、時間割全部書かなきゃ駄目だよ。前みたいに端折って忘れ物しても知らないよ。怒られてからじゃ遅いからね。」
「分かってる。」
「絵の具だって傘だって、いっつも人に借りようとして、ちゃんと自分の使えよね。おまけに借りたらなくすだろ。まったくもう。」
「恋無くしものの常連だからね。いっつも上野くんに怒られるでしょ。あ、そういやさ。」
理央が思い出したと言うように口を開いた。
「恋、上野くん、この間の子狐の話聞いた?」
子狐、と聞いて、宗介が理央を見る。
「子狐って?」
「あのほらよく学校に居る子狐の話。放課後廊下に居た子狐が、尻尾をドアに挟んじゃって、先生達に保護されたの。昨日の夕方。」
宗介はゆっくりと首を戻して恋に振り向いた。
その顔は男の子が軽く苛立っているの時の怒り笑いで、開いた口は今にも何か言いたそうだった。
理央が言った。
「あの狐、ちっちゃくて、人懐っこくて可愛いから絶対誰かのペットだって言われてるんだけど、飼い主全然名乗り出てくれないんだよね。多分今学校に住んでる。騒動だったらしいよ。鍵がたまたまなくなっちゃってて。恋、どうかした?」
恋は時間割を書きながら固まっていた。顔をあげない。
宗介が言った。
「……ほんとに。駒井、次またその狐の話聞いたら声かけて。」
「良いよ。しょっちゅう居るから、またすぐ言うと思う。体育館の裏で給食の残り貰って育てられてるらしいよ。本当かどうか分かんないけど。……あ、もう3時なっちゃう。帰ろう。」
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