クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
プロローグ
【プロローグ】

 二ヶ月ぶりに会った夫が、別人になっていた。

 顔かたちが変わったわけじゃない。
 初めて会ったときから、ハッと目の覚めるような端麗な容姿は変わらない。

 高い背も、がっちりとした体つきも広い背中も前のまま。肌は少し日に焼けたかもしれない……けど、声だって、身体の芯に響く魅力的な低い声で、以前となにも変わらない。

 変わったのは、彼の性格だ。いや、雰囲気と言ったほうがいいか。

「そんなに重いものを持つな、海雪(みゆき)
柊梧(しゅうご)さん、私、大丈夫です。これくらい重くなんて」

 そう言った次の瞬間には、買い物をした食材が詰まったエコバックふた袋は、夫である柊梧さんの男性らしい大きな手に握られていた。人目を惹く端正な顔は、心配そうな表情を浮かべている。

「ダメだ。君ひとりの身体じゃないんだぞ」

 その言葉に眉を下げた。――そう、私ひとりの身体じゃない。
 まだふくらみが目立たない私のお腹には、いま、柊梧さんの赤ちゃんがいる。

 妊娠が発覚したのが、彼が仕事で家を留守にしていた二ヶ月の間だった。

 夫である柊梧さんと私は、いわゆる政略結婚だ。

 そんな理由もあって、それまで、彼のイメージは、「とにかくクール」だった。
 そっけないし、不愛想といってもいい。なにを話そうと、「そうか」と相槌が返ってくるのが関の山。

 お見合い当初なんて、私に興味がないのが丸わかりの態度だった。

 それが、まさか、こんな……妊娠したとたん、こんなに甘くなるだなんて。

 ……まさか。
 変な考えが浮かんで、私は立ち止まり苦笑した。

「海雪? どうした」

 駐車場に向かう通路で、柊梧さんが振り向いた。平均的な身長がある私より三十センチ近く高いところから、心配を隠しもしない視線が降ってくる。

「体調でもわるいのか」
「そ、そんなことないです、大丈夫です」

 慌てて首を振る。
 まさか、あなたの態度が変わりすぎていて、別人に入れ替わっている想像をしたなんて言えない。柊梧さんは「そうか?」とまじまじと私の顔を見つめて、それから歩くスピードをものすごく落として言う。

「早めに帰ろう。買い物も疲れただろうから」

 車に着くと、柊梧さんは私にシートベルトまで着けてくれる。どうしてか、とにかく世話を焼きたいらしいから、このところは抵抗せずに任せていた。甘やかされるのは、どうにもむず痒い。
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