クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 気まずげにしているスタッフさんをよそに、ふたりは話し続ける。

 申し訳ないなと思いつつ、ヘアメイクの続きをしてもらう。私はそんなに髪が長くないけれど、スタッフさんは上手に髪をセットしてくれた。

 あとは仕上げのティアラだけ、となったところでドアがノックされた。

「はい」

 返事とともに入ってきたのは、真っ白な自衛隊の制服姿の柊梧さんだった。出航のときと違って、長袖だ。儀礼服というらしく、普段の制服より豪華な装いに見える。

 ただ、相変わらず唇は真一文字だったけれど。左手に真っ白な手袋を持っていた。

「柊梧さん」

 声をかけると、彼は私のところにきびきび一直線に歩いてきて、真横で立ち止まる。それからぽかんとしているお義母さんたちに、ほんのちょっとだけ目線を向けて目礼した。

「うっそ、イケメン……」

 愛菜さんが呟いたのが聞こえる。
 その言葉をまるっと無視して、柊梧さんは私に向かって微かに目を細めた。それからスタッフさんに向き直る。

「そのティアラ、俺が彼女につけても構いませんか」
「え、あ、わあ、はい、もちろんです」

 スタッフさんは赤面したまま柊梧さんにティアラを渡した。柊梧さんは着ける場所をスタッフさんに確認しつつ、私にティアラをつけてくれる。なんだか頬が熱いのはどうしてだろう。

 柊梧さんは一歩引き、私をまじまじと見つめたあと、真一文字の唇を緩めた。

「……似合っているな」

 私は目を丸くして、それからかああっとさらに頬に熱が集まるのを感じた。柊梧さんはさらになにか続けようとして、やはりやめたようで再び唇を引き結び、そっと私の手を取る。

「行こう。みな、主役を待ってる」

 その言葉に目を見開いた。
 まっすぐな瞳から、目が離せない。

 ここにいていいと、自分の横にいていいのだと、その目が語っているような気がして――私という存在を認めてくれている気がして、涙が出そうなほどに、嬉しくて嬉しくてたまらないんだ。

 このどうしようもない感情のこたえは、まだ出てくれそうにない。
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