リアルに恋していいですか 〜10年ぶりに再会した超国民的スターに執着されています〜

 慶介「この前西野さんが食べたのはイチジクだったけど、今日はマスカットを用意てみた」
 菜穂子「嬉しい……! 私、マスカット大好きなんです」

 ぱっと表情が明るくなる菜穂子。

 慶介(美奈、ナイス……!)(※美奈に教えてもらった)

 慶介はマスカットをひとつ摘み、菜穂子に手渡す。

 慶介「食べる?」

 マスカットを食べ、彼の顔を上目がちに見上げる菜穂子。マスカットを食べるだけなのに色っぽい。

 菜穂子「ん……甘い」
 慶介「…………」
 菜穂子「?」

 マスカットを半分にカットしていく。切るのが下手で、大きさがバラバラになってしまう。

 慶介「もしかして、あんまり料理しない?」
 菜穂子「忙しくて。自炊は全然しないですね。ほとんど出前とかで済ましちゃいます」
 慶介「身体が心配だな」
 菜穂子「ほんと、不健康な食生活ですよね」

 クリーム生地を作ってタルト生地の中に流してから、余熱したオーブンで焼いていく。
 オーブンをふたりで並んで眺めていると、慶介がおもむろに言う。

 慶介「普段は料理しないのに、タルトの作り方を覚えようとしてるのは……食べさせたい人がいる、とか?」
 菜穂子「…………」

 キッチン台にもたれながら頷く菜穂子。

 菜穂子「はい」
 慶介「……そっか。彼氏?」
 菜穂子「付き合ってはいないんですけど……好きな人です」

 菜穂子は目を伏せ、千晶のことを思い浮かべる。

 想像の中の千晶『え? これ菜穂子が作ったの? すご、売り物みたいだ』
 タルトを食べた想像の中の千晶『うまっ。めっちゃ美味しいよ。ありがとう菜穂子』

 にこっと笑う千晶の姿を想像して、菜穂子の頬が緩む。

 慶介「相手は西野さんのことどう思ってるの?」
 菜穂子「たとえ両想いでも、付き合うことはできない相手なんです」
 慶介「訳あり、か」

 そのとき、オーブンのタイマーが鳴る。

 慶介「あ、焼けたみたいだ」
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