リアルに恋していいですか 〜10年ぶりに再会した超国民的スターに執着されています〜

 千晶「未練がないことは分かってるって。勘違いとかはしないから、そう警戒するな。俺はただ、菜穂子と友達になりたいだけ」
 菜穂子「友達……」
 千晶「付き合ったことがある以前に、俺たち幼馴染だろ? お前とは仲良くしてたくてさ」
 千晶「ずっと、お前に嫌われたんだって思ってた。でもそうじゃないならもう、無視しないで」
 菜穂子「…………」

 菜穂子はお酒の入ったグラスを手に取り、一気に飲み干す。

 菜穂子(嫌いになる訳ない)
 菜穂子(でも、一緒にいたら私が辛くなるから)

 しかし、千晶が悲しそうな顔をしてこちらを見ているのを見て、心が揺らぐ。

 菜穂子モノローグ【離れると決めたはずなのに】
 菜穂子モノローグ【千晶の悲しそうな顔を見ると、心が揺らいでしまう】

 菜穂子は追加のお酒も飲み干し、小さく微笑む。

 菜穂子「分かった。友達に戻りましょう」
 千晶「まじ……?」
 菜穂子「そんな風に懇願されたら、拒めないわよ。それに私……千晶に会えて嬉しかったし」
 千晶「……!」
 菜穂子「何度かライブに見に行ったこともあるの。ステージの上できらきら輝いてる千晶を見て、よかったねって思うのと同時に……なんだか本当に遠くに行ってしまったんだなっていう寂しさもあって」

 菜穂子は画面越しに千晶のアイドル活動を応援していたことを思い出す。

 菜穂子(何度かどころか、ツアーは有給使って全部行ってるけど)

 そして、グラスを傾けながら、色っぽく呟く。

 菜穂子「客席から見ていたからかな。今こうして千晶が目の前にいるのが、変な言い方だけど――夢みたい」
 千晶「それは、こっちのセリフだよ」

 菜穂子の顔は好調していて、アルコールが回っているのが明らかに分かる様子。
 菜穂子はびしっと彼の鼻先に人差し指を立てて言った。

 菜穂子「ただし! 条件があるわ」
 千晶「条件……?」
 菜穂子「友達に戻るのは構わない。でも条件を守ってくれるならね。その1、絶対に触れないこと。その2、家に上がらないこと。その3、人の多いところでは会わないこと、その4――」
 千晶「いや多い多い」

 指を立てながら条件を提示していく菜穂子に呆れる。

 菜穂子「じゃあ、この3つにしておくわ。どう? 守れるの?」
 千晶「全く。……ガードが固いな」

 その声は小さくて菜穂子の耳には届かない。

 菜穂子「今何か言った?」
 千晶「いや何も。分かった。その条件、呑むよ」

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