恋の病に、堕ちてゆく。
待機していた店員さんがマスコットを袋に入れてくれた。お会計になると青波がすっと現れて、お金を払ってくれる。


「大我は何か買わなくていいの?」

「はあ?いらないですよ」

大我は商品には目もくれずに、売り場を出ていく。

ここに置いてあるグッズはどれも愛らしくて、大我の好みではなさそうだな。


「ありがとうございました」

「他に欲しいものない?」

「大丈夫です。気に入ったものを買えましたので」

「そっか、じゃぁ帰ろうか」


青波は終わりを告げる言葉を、吐いた。

当たり前のことなのに、何故だかまだ帰りたくない気持ちに陥る。

なんで?水槽を見て回った時は全然楽しくなかったのに。そんなにイルカショーが気に入ったのかな?

違う、またあの逃げられない空間に戻ることが嫌なだけだ。きっと、それが帰りたくない理由なんだ。

発信機を捨てて逃げる勇気もなく、
私たちは水族館を後にした。

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