ひとつのおむすびがきっかけで、凄腕救急医に溺愛されることになりました
笑顔でそう言ってくれる陽菜。おまけに、俺のことは大丈夫だと、そう思っていてくれるのが嬉しい。

少し強引な誘い方をしてしまったかと不安になったが、そうでなかったようで安心する。


「また連絡してもいいか?」
「はい。連絡、お待ちしてます」

「ありがとう」


俺がそう言うと、陽菜は小さく手を振りながら救急外来から出て行ってしまう。


まさか、陽菜の方から会いにきてくれるなんて思っていなかった。しかも、大量のおむすびを持って。

『みなさんで食べてください』だなんて、病院の部外者がそんな気の利いたことはなかなかできない。

やっぱり陽菜は、心の綺麗な女性なんだ。俺へのアピールのために、興味もない講習会に参加する藤沢とは全然違う。

陽菜だけは、誰にも渡したくないなーー。
そう思ったと同時に、スクラブの胸ポケットで院内用のスマホが震えた。


「……師長め」


救急車の受け入れ要請だろう。帰宅してのシャワーは諦めるしかなさそうだ。

俺は一旦休憩室に戻り、先ほど陽菜から受け取ったばかりの紙袋をテーブルの上に置くと、通話をしながら救急外来へと走る。


少しでも陽菜に会えたおかげなのか。

その後受け入れた急患の処置が、いつもよりスムーズに終わった気がした。
< 48 / 51 >

この作品をシェア

pagetop